シナリオクエスト

起きるはずのないこと

(冒険者が信託の部屋に入ると、イリスが笑顔で迎える。)
イリス
おかえりなさい、【プレイヤー】…
【プレイヤー】
ただいま、イリス。
イリス
ありがとうございます。【プレイヤー】のおかげでレビがジエンディアに戻りました。
【プレイヤー】
でも…、パンドラが…
イリス
それは仕方のないことです。パンドラもレビが戻ったことについては、よかったと思っているはずです。
【プレイヤー】
イリス
すべて大丈夫ですよ…
【プレイヤー】
うん、わかった。ところで、イリス。一つ聞きたいことがあるんだけど。
イリス
なんですか?
【プレイヤー】
シルバリア帝国の皇帝陛下が、どうやって予知能力を持つようになったのか知ってる?
イリス
私がセレス様の力を受け継いだとはいえ、力をもらう前から能力を持っていた方々の過去や行方についてはわかりません。
イリス
それに、その後に起きたこともすべてを知っているわけではありません。私が知り得るのは世界で起きている全ての事の一部にすぎませんから。
【プレイヤー】
なるほど…
イリス
陛下に会いましたよね?何を聞いたのですか?
【プレイヤー】
それが…
【プレイヤー】
(イリスにカイナに聞いた話を伝える。)
イリス
私に会ってからオルカリウムに向かうのですか?
【プレイヤー】
他のことが起きてはいけないという話も引っかかるんだ…
イリス
もしかして…あくまで推測ですが…
【プレイヤー】
何かわかったの?
イリス
シルバリア帝国の皇帝は、時間と空間の影響を受けています。人間であるあの方が、どうしてそのようにしたのかはわかりませんが。
イリス
【プレイヤー】…
イリス
とりあえず心配せず、オルカリウムに向かってみてください。もし予定されていない'他のこと'が起きたとしても、【プレイヤー】の後ろには私がいることを忘れないでください。
イリス
私と月と花、草木の主であるセレス様の力で守ってみせます。
【プレイヤー】
ありがとう、イリス。では行って来るよ。
イリス
その前に、本当はこの話を先にするべきだったのですが…
【プレイヤー】
うん?どうしたの?
イリス
ヒルダが離れ去ってしまいました。
【プレイヤー】
いつ?ルリア村に行く前までは…
イリス
パンドラがダフネに騙されたことに気付いてからすぐのことです。
イリス
ヒルダは自分が魔女という理由だけでたくさんの人が死んだり、怪我をする姿を見てきました。そしてそれに耐えられなくなり、長い時間身を隠すことを選んだのです。
イリス
そんな中、冒険者であるあなたに出会って、少しずつ力が弱くなりました。
イリス
私は、ヒルダが離れ去ることを望んではいませんでした。しかし、永遠に逃げるのが自分の運命と言いながら去っていきました。
イリス
カズノとジェリルがやろうとしていることが、皆に予想せぬ結果となるかもしれないと。
【プレイヤー】
予想せぬ結果?
イリス
そこはよくわかりません。とりあえず、ヒルダについてはまた今度話しましょう。
【プレイヤー】
わかった、イリス。では行ってくるよ。またね。
(イリスが【プレイヤー】に手を振る。【プレイヤー】もそういうイリスの姿を見詰めながら、ゆっくり信託の部屋を離れる。)
(イリスがその場から動こうとした時、どこかからともなく鋭い風が吹いてきた。そして風の隙間から、この世ならざる異質な声が流れてくる。)
???
イリスさん…
イリス
…!
(驚いたイリスが近づく風を掴もうとするも、風はイリスを無視するように叫びながら回る。)
???
あなたは戻ることができます。戻ろうとする気持ちさえあれば私が…
(風の隙間から流れ出ていた声は、風がイリスの小さな手に捕まえられた瞬間、奇怪な鳴き声を出し霧散する。)
イリス
イリス
私の選択で作られた存在が私を試そうとするなんて…
イリス
イリス
急がないと…

(ノーネームに会えたオルカリウムの隅っこで、冒険者は足を止める。)
【プレイヤー】
ノーネームに会ったのはこの間なのに、どうしてこんなに昔に感じるんだ。
【プレイヤー】
アーロンがオルカリウムに来るのは不思議だけど、陛下の予知通りならもうすぐ…
【プレイヤー】
【プレイヤー】
では隠れて待つか。
(冒険者が閑寂な場所に咲いている林の間に入って身を隠す。)
(待てど暮らせど、アーロンは現れる気配がない。)
【プレイヤー】
(一体いつ来るんだ?)
(冒険者が退屈に耐えられず立ち上がろうとした瞬間、遠くから誰かの声が聞こえてくる。)
誰かの声
こちらです。
【プレイヤー】
(おっと、バレるところだった。ちゃんと隠れないと。あの人はアーロン?)
(【プレイヤー】の視界にこちらに歩いて来る2人が見える。一人はアーロン、もう一人は女性で、プレイオス大陸とは似つかわしくない衣服を着ている。)
アーロン
ジエンディア大陸のジエンディア帝国から来ていただいたジエンディア様…まず僕に付いてここまで来ていただいたことにお礼申し上げます。
???
ジエンと呼んでください。
【プレイヤー】
(あの人は?えっ…ジエンディアさん?)
アーロン
よろしいのですか?
ジエン
大丈夫です。
(女性がしかめっ面でアーロンを見つめる。)
ジエン
好きに呼んでいただいて結構です。どうせアーロンさんと長く付き合うつもりはありませんので。
アーロン
そうなのですか。
ジエン
アーロンさん。
アーロン
はい、ジエンさん。どうなさいましたか。
ジエン
プレイオス大陸の太陽、シルバリア帝国がジエンディア大陸のエリアス王国との交流に、尽力されているのは存じております。
ジエン
ですが、辺境である私達とも交流を希望することには少し驚きました。ただでさえ申し訳ないと思っていることもありましたし…
アーロン
偽物アガシュラ兄妹の件でしたら、帝国も関わっていることでした。あまりお気になさらずに。
ジエン
あの人達がイーストランドまで行くとは思いもよりませんでした。
ジエン
ふぅ…
(ジエンがため息を吐きながらアーロンを見つめる。)
ジエン
さて、アーロンさん。私を帝国に招いた人がシルバリアの皇帝陛下ではないことは存じております。私を招いたのは議会の中心にいるあなた…
【プレイヤー】
(アーロンは何を企んでいるんだ?)
アーロン
ほお…
(アーロンが満足したような笑顔になる。)
ジエン
あなたと似ている卑劣な笑顔をどこかで見た気がします。思い出せませんが。
アーロン
ふふ、思い出せませんか?
ジエン
覚えるほどでもなかったようです。とにかく、行方不明になった私の臣下がどこにいるのか教えてください。
ジエン
それが私がここまで付いて来た目的なのですから。
アーロン
監察者は魔女が連れて行きました。
【プレイヤー】
(…アーロンは全部知っているんだ。ところで私はいつまで聞いていればいいんだ?変な雰囲気が流れているけど…)
ジエン
ジエン
そんなことを言うために私をここまで連れて来たのですか?それは私も知っている事…
ジエン
あなたが魔女と手を組んでいることくらいは…
アーロン
他国の君主がそういう情報を知っているなんて流石ですね。
ジエン
有能な監察者が臣下にいますからね。しっかり話していただかないとアーロンさんの身上も…ま、まって…
(ジエンがアーロンを見て何かを感じたのか後ずさる。)
アーロン
ジェンさん…
ジエン
これは私が捕まえた時に感じた…
アーロン
私の身上がなんですって?
(アーロンがポケットから醜い短剣を一つ取り出す。)
ジエン
そ、それは…
アーロン
知っているのですね。これは彼があなたの時間を持って行くために使った…
【プレイヤー】
(彼…というのは誰のことだ?)
(アーロンが短剣を握って指先を切る。そうすると傷の間から血がゆっくり地面に落ちる。)
ジエン
(ジエンの足元に赤色に光る魔法陣が作られて、落ちたアーロンの血がその中で沸き始める。)
アーロン
確かジェンさんはデミゴッドと似ている存在…それで僕を相手することができると思ったのでしょう。ですが、見落としていることが…
【プレイヤー】
(いくら予知通りにならないといけないとはゆえ、このままじゃジエンディアさんが死んでしまう。助けないと!)
【プレイヤー】
ジエンディアさん!とりあえずここから逃げてください!話はまた後で!
【プレイヤー】
…?
(耐え切れずに冒険者が動いたその瞬間、目に見える全てが止まってしまう。)
【プレイヤー】
(ジエンが恐怖におびえていて、アーロンが剣を持ったまま止まっている。言葉通り、全てが止まってしまった世界。)
(冒険者が腕を伸ばしてジエンディアを掴もうとするも、冒険者の手が、止まっているジエンディアの身体を通過してしまう。)
(それだけでなく、ジエンディアに触れた【プレイヤー】の腕さえもまるで固まったように動かなくなる。)
【プレイヤー】
な、なんだ?あ…まさか、他のことが起きるって…
【プレイヤー】
まるで時間が止まったように…
【プレイヤー】
【プレイヤー】
ど、どうしたらいいんだ?
(そうやって困っていた【プレイヤー】の前に、誰かがゆっくり近づく。)
【プレイヤー】
…アルケー?
アルケー
【プレイヤー】さん、動かないでください。
(アルケーが手を伸ばして【プレイヤー】の左腕を掴む。)
【プレイヤー】
アルケー、ここにはどうやって?プネウマから出られないんじゃないんですか?
アルケー
アルケー
プネウマと似ている形の場所なら行けるみたいです。
【プレイヤー】
…ここはプネウマではない…だから…
アルケー
冒険者さん。気をしっかりして、よく聞いてください。
アルケー
カイロスが眠りから目を覚ますことなく、クロノスの時針と分針が止まりました。そして冒険者さんを基準に、時間と空間が二つに分かれました。
【プレイヤー】
アルケー?どういうことですか?
アルケー
しっかりしてください!!
【プレイヤー】
…!
アルケー
ごめんなさい。時間がありません。
アルケー
とりあえず目を閉じてください。私がプネウマに連れていきますので、私が目を開けてもいいと言うまで、決して目を開けないでください。
アルケー
もし目を開けてしまったら、手が離れてしまいます。手が離れると、全てを巻き返すチャンスさえも消えてしまいます。
【プレイヤー】
わ、わかりました。
【プレイヤー】
【プレイヤー】
(アルケーに言われた通り目を閉じただけなのに、右腕が動き始めた…)
アルケー
アルケー
行きましょう、【プレイヤー】さん。しばらくは冒険者さんの正面の時間には…
(アルケーの声が少しずつ薄れて聞こえなくなってくる。まるで時間が止まり、音さえも消えてしまったかのように…)