シナリオクエスト

消えなかった歌

(人がいなくなり静かな水晶月の森の突き当たり、小さな石段の上に巨大な星形のオブジェが建てられている。)
【プレイヤー】
リーフ所長に言われた場所はこちらですね。
クロリス
あの中からものすごい魔力を感じます。
【プレイヤー】
ちょっと待ってください。
(冒険者がオブジェに手を伸ばすと、目の前に広がっていた金色の薄い膜がキラキラと光る。)
【プレイヤー】
入れそうですね。
???
本当ね。この中に入る人がいるという噂は…
(星形のオブジェの裏から一人の女性エルフがひょこっと頭を出す。)
クロリス
あなた、誰ですか?
???
クララ…
【プレイヤー】
村人ですか?
クララ
リーヴスラシル出身ではあるけど、今は違うわ。
【プレイヤー】
どうして一人でここにいるんですか?
さっき森にいる人は戻るようにとリーフ所長から案内があったはずですが…
クララ
インスピレーションが湧かなくて歩いていたらここだったわ。消えた星の歌…
クララ
勇者を星に例えて、彼が世を去ったのを消えたと表現しているのが大好きなの。
クララ
集中している時はリーフ村長の声も聞こえない時があって…また怒られちゃいそうね…
【プレイヤー】
インスピレーションですか?
クララ
まあ、色んな本を書いているの…すぐ戻るわ。
クララ
ところで、あなた達は誰…?みんな戻ったのに、この中に入ろうとしている…リーフ村長に許可を得たのはわかるけど…
【プレイヤー】
クロリスさん、どうしますか?クララさんに話さなければならないようですが…
クロリス
簡単に話しましょう。
クロリス
クララ、私はクロリスという魔法使いです。
クララ
あ…あたしあなたの名前聞いたことあるわ。本も読んでるわよ。
クロリス
魔法書ですか?
クララ
ううん、ベルパ図書館のロマンス小説コーナーで。
クロリス
あ…
【プレイヤー】
…?
クララ
すごく面白かったんだけど、なんてタイトルだったかな…ふむ…
クロリス
うああああ、思い出さなくていいですよ。クララ。
(クロリスが慌てて手を振る。)
クロリス
それは今大事なことじゃありませんから…
クララ
うん…そしたら大事なことを話してちょうだい…
クロリス
どこまで覚えているかわかりませんが、10年前に村を離れた人が再び…
クララ
あ、10年前ね…
(クララがわかったように頷く。)
クララ
見覚えがあると思ったわ…あの時はありがとうって言われて誰かと思った…
【プレイヤー】
覚えてるんですか?
クララ
あ、うん…あまりいい記憶はないけど…なんだっけ?名前が…たしか…
クロリス
やはり…
クララ
どこまで覚えているかってこういうことね。わかった、戻るわ。
【プレイヤー】
一人で大丈夫ですか?
(【プレイヤー】の質問と同時に、水晶月の森に再びリーフの声が響き渡る。)
リーフの声
「クララはそこで待ってて!ルートンが迎えに行くから!」
クララ
一人で大丈夫だけど…ルートンがいれば安心ね。
クロリス
では絶対戻ってくださいね。
クララ
うん…
クロリス
【プレイヤー】さん、入りましょうか?
【プレイヤー】
はい、行きましょう。
(冒険者とクロリスがゆっくりと大きな星のオブジェに足を踏み入れると金色の膜が再びきらめく。)
(そして2人は金色の膜の向こうにゆっくりと姿を消す。)
クララ
本当だったのね…伝説の勇者が入ったという神秘の空間…
クララ

(前が見えないほど様々な色の光が迫ってきて消える頃、ようやく空間の様子が見えてくる。)
(リング状に燃えているような月の下に、星と月の形の欠片のようなものが落ちている。)
クロリス
消えた星の歌…
【プレイヤー】
皆が知っている美しい星と月の形が全てここにあるみたいです…
クロリス
そうですね…あ、【プレイヤー】さん、あっち…
(クロリスが指差した先で、小さな坂の上に黒い狼のような一人の男が立っている。)
【プレイヤー】
サリオン…
(マーリンがその場から跳び上がり、クロリスと【プレイヤー】の前に着地する。)
マーリン
マーリン
だいぶ前に捨てたその名前、久しぶりに聞いたな。
マーリン
リーフ村長が教えたのだろう。
【プレイヤー】
どうして待っていたんですか?
マーリン
教えてあげたくてな。オレの復讐の対象にキミ達はいない。
マーリン
リーヴスラシルと関わりのない者は帰れ。そうすれば何も起きないはずだ。
【プレイヤー】
(オルカリウムでもエル・ラルサに言われたな…)
マーリン
約束しよう…
【プレイヤー】
人殺しの話を信じろと言うんですか?
マーリン
信じるか信じないかはキミ次第だ。
マーリン
だが、彼らはいつかオレの手で殺されるべき者達だった。
クロリス
あなたの身に起きたことは残念ですが、だとしても人を殺すのは…
マーリン
マーリン
自分の手で誰かを殺すというのは決して気持ちのいいことではなかった。だが、オレは…そうするしかなかった。
マーリン
中途半端な状態で存在自体を否定され、目の前で家族が死んでしまった。それを見ても我慢しろと言うのか?
マーリン
今までオレの記憶は否定で、オレの時間は苦痛で溢れていたが…報われることはなかった。
マーリン
死にも納得できる時間が必要だ…だが、オレはそんな時間もなかった…
【プレイヤー】
(その瞬間、マーリンがクロリスに銃を向ける。)
【プレイヤー】
マーリン!
バンバンバン!
(驚いた冒険者が急いでマーリンに駆け寄るが、既に銃から強烈な音と共に火花が起きた後だった。)
(だが、弾丸はクロリスに届く直前で防がれて地面に落ちる。)
クロリス
危うく死ぬところでした…
(クロリスの前に現れた大きな植物の蔓と葉が散らばって消える。)
【プレイヤー】
クロリスさん、大丈夫ですか?
クロリス
事前に唱えておいた呪文のおかげで助かりました。
【プレイヤー】
ふぅ…よかったです。よかったですが、許すことはできませんね。
【プレイヤー】
マーリン!
(叫び声と共に【プレイヤー】の強烈な攻撃がマーリンに向かう。だが、その攻撃はマーリンの盾で防がれてそのまま無力に弾かれてしまう。)
【プレイヤー】
うっ…
マーリン
適当に付き合ってあげたい気持ちはあるが、今ではない…
クロリス
【プレイヤー】さん!大丈夫ですか?
(驚いたクロリスが【プレイヤー】に近づく間に、マーリンが背中を向けて元々立っていた坂まで跳ぶ。)
マーリン
モルガナに聞いた。神に愛されている人間だと…
聞きたいことがあったのだが、どうせ意味のないことだろう。
マーリン
エトワールの神なんて逃げた瞬間から神じゃなくなったからな。
マーリン
マーリン
ふぅ、オレが先に終わらせないとモルガナを待たせてしまう。
マーリン
まだ先のことだが、止めたければオレより先に星の歌の奥に到着してみろ。
(その言葉と共にマーリンが坂から下りてどこかへ走って行く。【プレイヤー】一行が急いでマーリンを追いかけるも、既に彼の姿は見えていない。)
【プレイヤー】
逃がした…
クロリス
【プレイヤー】さん、マーリンが向かった方向ではなく他の方向はどうですか?
【プレイヤー】
え?
クロリス
マーリンが自分より先に到着してみろと言ったのは道を分かってないからだと思います。お互い道を分かっていないのなら、他の方向に向かってみるのもいいと思います。
【プレイヤー】
私達もマーリンもここは初めてですから確かにそうですね。
クロリス
私がこの中に流れている魔力を追いかけますので、付いて来てください。
【プレイヤー】
はい、急ぎましょう。
【プレイヤー】
(……)
【プレイヤー】
(マーリンの言葉が引っ掛かる。まだ先のこと…)

(輝く星と月の欠片が落ちている坂道をしばらく走っていると、遠くに異質な物体が見えてくる。)
クロリス
あれは…
【プレイヤー】
棺ですね…
(白の石棺の周りを包んでいる星の木の根と蔓、そして周囲で輝く星の欠片のおかげなのか、聖なるオーラで溢れている。)
クロリス
あそこから強い力を感じます。
【プレイヤー】
リーフ所長に言われた力があそこにあるかもしれませんね。
クロリス
ひとまず確認を…
(クロリスと共に石棺に近づこうとした瞬間、石棺に寄りかかって座っていたマーリンと目が合う。)
マーリン
遅いな。
(マーリンが立ち上がって後ずさる【プレイヤー】一行を見つめる。)
マーリン
あの女を前面に出させてここまで来たのはいい選択だった。消えた星の歌、ここに流れる力は…
マーリン
【プレイヤー】
どういうことですか?最後まで話してください。
マーリン
人間が聞いても仕方がないこと…
クロリス
マーリン…
マーリン
取引をしよう…
マーリン
先にオレの質問に答えろ。そしてオレを倒せ。
そうすればキミ達が求めている答えを教えてあげよう。
クロリス
条件が多いのですね。
【プレイヤー】
クロリスさん、それに私達からしたら何を選んでも一緒です。
【プレイヤー】
マーリン…
マーリン
キミ達はリーヴスラシルの偽善的なエルフに価値があると思うか?
クロリス
とんでもないことを聞くのですね。
マーリン
もう一度聞こう。リーヴスラシルにはそれだけの価値があるのか?
【プレイヤー】
【プレイヤー】
その価値は誰が判断するんですか?
マーリン
それが答えなのか。キミ達が守るほど価値のあるモノじゃないのに…
(マーリンが静かに目を閉じたまま銃を触る。)
マーリン
モルガナ…オレがリーヴスラシルへの復讐を完遂し、キミがアズラエルに戻る日が来た。
【プレイヤー】
クロリスさん…
クロリス
はい…
(2人が事態に備えて後ろに下がったその時、マーリンを目を開ける。そして今までなかった黒い翼が彼の背中から生えて来る。)
マーリン
エトワールと人々の記憶から永遠に消してあげよう…リーヴスラシルと同じ運命を迎える愚かな者達よ。

(マーリンの攻撃を受けて魔力を使い果たしたクロリスが気を失ってしまう。)
【プレイヤー】
クロリスさん!
どすん。
(【プレイヤー】の頭の上に冷たい金属の感覚が伝わる。)
【プレイヤー】
マーリン
最後に言いたいことは?
【プレイヤー】
止まって…
マーリン
お前はオレが止められると思ってるのか?止められるならとっくに止まってる。
マーリン
それより死を前に他の偽善者と同じように命ごいをしろ。そっちの方がマシだ。
マーリン
キミが愛する神の名前を呼んで憎んで呪え。そして助けてくれと泣きながら願え。
(無表情だったマーリンから激しい言葉が続く。)
【プレイヤー】
そんな風にイリスを呼びたくはない…
マーリン
救済を望まないか…
【プレイヤー】
少なくとも今ここで私の未来は終わらないよ。
マーリン
マーリン
キミは既に救われたのだな。救済が救済だとわかってないバカのくせに…クハハハ…
(マーリンが手で顔の火傷の傷を隠しながら狂ったように笑う。)
マーリン
たくさんの命が不幸を前にして神に救済を求めた。
死にながら神の名前を叫んで願った。
マーリン
偽善者であるほど神の名前を何度も叫んでいた。
お願いします、助けてください、お金も祭物も全部差し上げます、と!
マーリン
オレの手で裁いた者も、無念の死を遂げた者も、神の前では皆が平等だった。
その皆が死んでいったのだから。
【プレイヤー】
だとして…
マーリン
うるさい!
マーリン
オレに忠告をする資格があるとでも思っているのか?
傲慢な人間だ…それなら、キミが持つその力はなんだ?
マーリン
神の加護とはいえ、今のお前の力は誰かの死を代償に得た力じゃないのか?
【プレイヤー】
そ、それは…
マーリン
モルガナの話は本当だったんだな。偽善者め…
マーリン
よく覚えておけ、【プレイヤー】…キミの言葉がどれほど虚しくてどれほど呪われるモノなのか…
【プレイヤー】
(そうしてマーリンが銃を握る指に力を入れた瞬間、後ろから誰かがぴょんと現れる。)
マーリン
邪魔するな、モードレッド!
モードレッド
早く終わらせて遊ぼうよ!
(遊ぼうと顔を近づけるモードレッドの登場にマーリンの姿勢が崩れる。)
モードレッド
マーリン、マーリン!あたしがやってもいい?モルガンに面白いことって言われたんだよ。
マーリン
モルガナに?
モードレッド
うん!
(モードレッドは頷き、笑顔でマーリンを通り過ぎる。)
バーン。
(何かが爆発する音と共に【プレイヤー】の視野が全て黒色に滲んでいく。)
【プレイヤー】
な、なんだ?!これは血…
マーリン
モードレッド…どうしてキミが…くっ…
(マーリンは血を吐きながら辛うじて姿勢を保っているが、今にも倒れそうだ。)
モードレッド
ごめんね、マーリン。モルガンに必要なモノがあるって言われたんだ。
それはそれは!憤怒と復讐に餓えた魔族の血!
(モードレッドは自らも理解してないように頭を掻く。そしていつの間にか持っていたポーションの瓶を開けてその中を確認する。)
モードレッド
ふむ。いい血!マーリンの血がここに入ったらいいよって言われた!
(モードレッドの槍の先を流れる黒い血が、ポーション瓶に滴り落ちる。)
マーリン
…そういうことか…
マーリン
ただオレの血が必要なだけだったのか…くっ…
(マーリンが虚ろな表情でその場に座り込む。)
モードレッド
え…ちょっと足りないじゃん。モルガン、錠の血も採っていい?
(モードレッドが【プレイヤー】を見つめながら誰かに質問を投げる。するとモルガナの声がまるで隣にいるかのように聞こえて来る。)
モルガナの声
他の血は要りませんよ、モードレッド。
そしてその人は鍵でした。錠ではなくて。とにかくマーリンの血を持って戻ってください。
モードレッド
あ、そうだ。鍵って言ってたよね?
イヒッ。でも錠の方がかわいいじゃん!あんた、錠!あたし今からモルガンのところに行くの!あとで一緒に遊ぼうね!わかった?!
【プレイヤー】
【プレイヤー】
(緊張を緩めることはできない。まだクロリスさんが…)
(モードレッドが手を振って挨拶をすると、背中から黒い影が一つ浮かび上がる。そしてモードレッドを包んでどこかに連れて行く。)
マーリン
モルガナ!
モルガナの声
マーリン、どうしたの?私はあなたの夢を叶えてあげたのよ。私はあなたの復讐を手伝うって言ったわよね。
(モルガナの声に合わせて黒い影が広がっては縮む。)
モルガナの声
あなたの血が私とあなたの願いを叶えてくれるのよ。
私を信じて。あなたの復讐はもうすぐ完遂するの。私を信じて…
マーリン
キミはオレをどこまで信じていたんだ?
モルガナの声
不安な感情の記憶を信仰で覆い隠し、
アーサーが残した力まで与えてあげたのに、まだ足りなかったみたいね?
マーリン
待て…今のオレは…オレの記憶は…?
モルガナの声
思い出さなくていいのよ、マーリン。そして返してもらうわ。あなたはもういらないの…
(モルガナの声が消えて、マーリンの動きが止まる。そして、星の歌がマーリンの悲鳴で溢れ始める。)
マーリン
うううっ、ううっ。くああああ!
【プレイヤー】
マーリン?ま、まって。これは…
【プレイヤー】
(いつか感じたことのある恐ろしさ…これは…)
(マーリンが苦しめば苦しむほどモードレッドの攻撃で受けた傷から黒い血が流れ出してていく。)
(地面に落ちた黒い血が次第にキラキラと輝く空間の光を消していく。)
【プレイヤー】
こ、これは…そ、束縛だ…あの時とは違う…
モルガナの声
【プレイヤー】、もうあなたが何を言っても私を止めることはできませんよ。
全ての準備を終えた私は戻ります。彼の時間が私を早く送ってくれるでしょう。
マーリン
マーリン
オレの手で復讐したかっただけなのに…こんな結末を望んでいたわけでは…なかったのに…
マーリン
(マーリンは動きを止め、何も言わなくなる。)
【プレイヤー】
マーリン?
モルガナの声
アーサーの計画通りリーヴスラシルの全ての生命は蒸発し、聖堂にある力も全て消えるでしょう。
リーフ
黙れ魔女!
この場所はお前なんかが壊して良い場所じゃない!お前の計画通りにはいかないよ、魔女。
(その時、【プレイヤー】の前にリーフが現れる。)
【プレイヤー】
リーフ所長?
モルガナの声
魔族の血で汚れた勇者の棺、その力が再び戻ることはない…
(リーフがウィンクをすると棺の周りに流れていた黒い液体が痕跡もなく消える。)
モルガナの声
面白いですね。
リーフ
ふふ、この程度なら。
モルガナの声
面白いエルフですね。もうここには残っている力もありませんので、私は去ります。どうせあなたも今夜蒸発しますから。
(話を終えたモルガナの声が消えて、空間の一部を埋めていた黒い影も消えていく。)
リーフ
ふぅ…一息つけるわ。しっかりしてください、【プレイヤー】。
【プレイヤー】
はい?はい…
リーフ
マーリンは私が見ますので、クロリス学園長とここから出て聖堂に向かってください。
【プレイヤー】
聖堂…
リーフ
不滅の司祭団が聖堂に向かいました。おそらく魔女の力を感じたのでしょう。
リーフ
リーフ
私達にはあなたの力が必要です。お願いします。
リーフ
そして女神様。力不足なこのエルフを導いてください…お前なんかが二度と過ちを繰り返さないように努力しますから…
(リーフの小さな声と共に星の歌の中にあった星の構造物が明るく輝き始める。そして周りにいる全てのモノを消していく。)
【プレイヤー】
所長!

クロリス
【プレイヤー】さん…?
【プレイヤー】
所長!
クロリス
所長は大丈夫ですよ。
【プレイヤー】
所長!
【プレイヤー】
【プレイヤー】
あ?
(周りの風景が初めて見た時と同じく美しくて明るい光で溢れている。冒険者はようやく周りの状況を確認し、何食わぬ顔でクロリスを見つめる。)
【プレイヤー】
クロリスさんは大丈夫ですか?
クロリス
クロリス
【プレイヤー】さん、自然すぎてびっくりしました。
クロリス
それより、所長のおかげで目を覚まして回復したようですが…
クロリス
見てください。大丈夫そうですよね?
(クロリスが腕を上げて見せる。)
【プレイヤー】
よかったです。
【プレイヤー】
所長に言われた通り急いで聖堂に向かいましょう。詳しいことは行きながら話します!
クロリス
はい!