シナリオクエスト

劇場の主席団員

(鏡の外に出ても割れた鏡はそのまま残っていて、人形達が歩き回る島の風景もそのままだ。通り過ぎた道には相変わらずヘイデンが立っている。)
(ヘイデンが言いたいことがあるかのようにぬいぐるみマリーの手を振る。)
【プレイヤー】
ヘイデン、私に話があるんですね。
ヘイデン
もし…会いましたか?
【プレイヤー】
私が会ったのはキルケとキルケが人形と言っていたスキュレー…、二人です。
【プレイヤー】
教えてください。誰がヘイデンが話した「あの方」なのか…まってください、その糸はなんですか?
(やっとヘイデンの首を絞めている白い糸が見える。しかも糸はヘイデンだけではなく周りの全てを結んでいるかのように巻かれている。)
【プレイヤー】
これで言えなかったのかな?待っててくださいね、ヘイデン…
(冒険者がヘイデンの首と体に巻かれていた糸を切り始める。固まっていたヘイデンの顔に活気がみなぎる。)
ヘイデン
はあ…
【プレイヤー】
大丈夫ですか?
ヘイデン
ありがとうございます。私の身体を縛っていた糸を切ってくださって。この糸のせいで私は何もできませんでした。
ヘイデン
エコーのように嘘を吐く精霊にはなりたくなかったのですが、ごめんなさい。
【プレイヤー】
エゴ―を知ってますか?
ヘイデン
神に嘘を吐く精霊は精霊の間でも噂になっているのですよ。ところで、【プレイヤー】様、あの糸が見えますか?
【プレイヤー】
なんというか…急に見えました。
ヘイデン
魔女の本当の力は魔女の力に影響を受けた者にのみ見えるようになっています。【プレイヤー】様は知り合いの魔女がいるのですか?
【プレイヤー】
知り合いの魔女…というにはちょっと違いますが…一人います。あの方はイリスの味方にいる方です。
ヘイデン
他の精霊達もそう言っていた気がします。【プレイヤー】様がそう言うのなら間違いありませんね。
【プレイヤー】
ということは、キルケが魔女ということですね?人形の主って言ってたから…いや、まさか…
ヘイデン
想像している全てが合っています。そして誰かを待っています。
【プレイヤー】
それは一体誰ですか?
ヘイデン
それは…う、うああああ!
(ヘイデンが答えようとした瞬間、急に痛みを訴えながら倒れる。)
【プレイヤー】
ヘイデン?ヘイデン!どうしました?これはまた糸…待ってください、私が切りますから。
???
マネージャーが舞台を邪魔する存在はやっつけちゃうタイプでね。あ、失礼。
【プレイヤー】
…?!
(はっきりと聞こえる声をなぞって目線が自然と動く。スキュレーのように身体の一部が人形の形をしている青年が冒険者を見つめている。)
ヘイデン
グラウコス様です。
【プレイヤー】
グラウコス…?
(グラウコスという名前を聞いた青年が笑顔を見せる。)
ヘイデン
あの方がこの島の主様です…ですが、人形の呪いを受けて…
ヘイデン
(ヘイデンが言葉を終えず気を失ってしまう。)
グラウコス
あの精霊は一体何を言ってるんだ。
【プレイヤー】
あなたはここで何をしてるんですか?
グラウコス
新人団員である君を待っていたのだ。君にぴったりな役があったのでおすすめしようと思ってね。
グラウコス
怪物と戦う勇者役だ。ハハ、君にぴったりじゃないか?
【プレイヤー】
【プレイヤー】
(スキュレーもそうだけど、グラウコスも自分が役者だと思っている…ということは…)
【プレイヤー】
ではあなたはどういう役を担当しているんですか?
グラウコス
もちろん、主席団員である俺は主人公だ。愛する女性を助けようとしたが、呪われて怪物になってしまった悲運の男。
グラウコス
正義なる勇者はこの男がただの怪物にしか見えないがために倒れようとしているんだ。
グラウコス
さあ、どうだ?この舞台に立ってくれるか?
【プレイヤー】
グラウコス
先にリハーサルをしておきたいが、時間があまりないんだ。今回の舞台は即興曲だから、役者のセンスに頼っているんだ。
グラウコス
では俺はメイクをしながら待っているよ。君はあそこにあるエウガモン劇場に来て、他の団員の芝居に付き合ってくれ。
グラウコス
主人公が呪いを解けられるかどうかは、君の手にかかっているよ。
(グラウコスが濁った瞳で軽く微笑む。そして背中を向けてゆっくりと劇場の扉に歩いて行く。)
【プレイヤー】
…スキュレーも、グラウコスも自分達が舞台の役者かのように行動した…ヘイデンも糸に縛られていた間は演技をしていた。
【プレイヤー】
【プレイヤー】
(魔女が作った人形劇のように…)
【プレイヤー】
(あれ…主人公が呪いから解けるとどうなるんだ?この島は…?)
(色んな考えていっぱいな頭の中を整理していると、倒れているヘイデンの傍にいるうさぎのぬいぐるみが目に入る。)
【プレイヤー】
マリー、少しだけヘイデンの傍で待っててね。
【プレイヤー】
(あれ?見間違い?頷いたような…)
【プレイヤー】
劇場に行ってみよう。あそこに答えがあるはず。

(扉のように見える箱の中に入ると目の前に物凄い風景が広がる。)
(赤いベルベット素材の布で作られた客席と、背景の構造物が立っている舞台はここが劇場であることを改めて気付かせてくれる。)
【プレイヤー】
わぁ、なんだここ…俳優達がここで演技をするって言ってもおかしくないな。
(そうやって舞台を見渡っていると、舞台の奥が騒がしい。初めて見かける少女が人形の群れに囲まれて慌てている。)
???
なによ、この人形達は。なに?どうして私を掴まえるの?
???
まって、あんた達…人形じゃないじゃない。ここなら隠れられると思って来たのに…
【プレイヤー】
待っててくださいね、私が助けますので。
???
あんたは鍵…
【プレイヤー】
鍵?どうして私を鍵って呼んでるんだ?
???
こういう感じで会ってしまってはいけないの…意識が遠くなる…あんたは私より…
(人形達がふらつきながら倒れる少女を連れて急いでどこかに向かう。)
【プレイヤー】
待て!
【プレイヤー】
【プレイヤー】
どこに行ったんだ?この前の道は一つしかないのに…
【プレイヤー】
キルケの能力がそういうものなら急がないと。こうしている時間がないんだ…
(そうやって冒険者が少女を見つけるために舞台の外に出ると、舞台の上ではまるで予定されていたかのようにグラウコスのナレーションが流れる。)
グラウコスの声
一方、島を訪ねた勇者は目の前で怪物に連れ去られた女性を助けると決めた。
グラウコスの声
あの瞬間まで勇者は気付いていなかった。これが全て誰かのいたずらということを…

(舞台の雰囲気が変わり続ける間、たくさんの人形達が演技をしているように【プレイヤー】の前に現れて消えることを繰り返す。)
(そうやって劇はフィナーレに向かって、ついに終章だと思われる舞台が立てられる。)
【プレイヤー】
ここが最後なのか?
【プレイヤー】
明るい月、邸宅から見える海…ロマンティックだな。島の外の姿なのか?いや…
【プレイヤー】
島の外は何もない魔力の竜巻…
(そうやって外を見ていた【プレイヤー】の後ろに大きな影が近づく。)
グラウコス
騎士が敵に背中を見せるなんてあり得ないことだ。さあ、勇者よ。俺を見ろ。
【プレイヤー】
グラウコス…
【プレイヤー】
(あれ、このセリフ…スキュレーが言ってたような…)
グラウコス
勇者よ。ここまでよく来てくれた。では俺の話を聞いてくれ。
グラウコス
君が知っていることは全て誤解だ。俺が女性を祭物としようだなんて…それは魔女がやることだ!
【プレイヤー】
魔女…
グラウコス
だが、君は全て俺の仕業だと信じて来たのだろう。
【プレイヤー】
(グラウコスは演技をしている。書かれた台本通り…)
グラウコス
今は怪物のような姿になっているが、これは俺の元の姿ではない。呪いなんだ…
グラウコス
愛する人のため、代わりに呪いを受けようとしたが…愛する人も呪われてこのような姿になってしまった。そしてどこかに閉じ込められてしまった。
【プレイヤー】
(これはまさか…)
グラウコス
ここまで来た君には使命があるのだろう。君の正義のため。
グラウコス
だが、俺もここにいなければならない理由があるんだ。
(グラウコスが手に握っている武器を掲げて見せる。)
【プレイヤー】
(強い力を感じる…戦うという意思もある。いや、正確には戦いを誘っている。ということは…)
グラウコス
君が望むのなら怪物になってしまった俺を倒してくれ。俺に君の正義を見せてくれ…
キルケの声
グラウコス、やめて!お願いだからやめて!!!
(どこかから泣き叫ぶキルケの声が聞こえて来る。その瞬間、どこかから人形達が集まって来て二人を囲む。)
(しかし、グラウコスが広げた魔力の結界のおかげで人形達はその場で溶けて消えてしまう。)
【プレイヤー】
この状況は…
グラウコス
【プレイヤー】…神に愛される使いよ。もう俺が準備した劇は終わりを迎えている。フィナーレは君がやってほしいんだ。
グラウコス
キルケがかけた呪いを解けること、それが終章の話だ。
【プレイヤー】
私がどうしたらいいんですか?
グラウコス
俺を殺してくれ。そうすると島の主である俺の力が全て宿っているこの空間がキルケを永遠に閉じ込めるから。
グラウコス
そうなってくれると君は無事に他の者達とお家に帰ることができるだろう。
【プレイヤー】
グラウコス
じゃないと…うっ、ううううっ、キルケ、やめろ!キ…、ルケ…、
グラウコス
(話を続けていたグラウコスの目から焦点が消える。そして誰かの代わりになった人形のように違う声を出し始める。)
グラウコス
いやだよ、グラウコス☆
グラウコス
【プレイヤー】、あたしはあんたが神の使いでもなんでも構わないのよ。どうせあんたはあたしに取って目障りな存在になってしまったから。
グラウコス
これからあたしがどうするのかはわかってるよね?
【プレイヤー】
知りたくないよ。
グラウコス
イライラする…イライラする。あんたってイライラするのよ!
(グラウコスの意識を蚕食した誰かは答えが気に入らなかったのか、感情をそのまま口にしている。)
(それも一瞬だけ、人形の主はいつものように人形になる対象にもう一度説明するだけだ。)
グラウコス
教えてあげるわ、このまま大人しく人形劇の団員になるのよ!スキュレーとグラウコスのように!

(辛うじて戦闘を続けていた【プレイヤー】の視野に照明に反射され光っている何かが目に入る。)
【プレイヤー】
そうだ、あの糸だ!
(冒険者がグラウコスの隙を狙って彼を拘束していた糸を全て切り落とす。そうすると、力を尽くした島の主がそのまま倒れる。)
グラウコス
グラウコス
う…う、ここは…俺は一体…
(グラウコスが辛そうに声を出して立ち上がる。)
【プレイヤー】
…グラウコスさん?
グラウコス
安心してくれ。もうキルケが俺に影響を与えることはできない。俺が気を取り戻したということはキルケの糸も全て消えたのだろう。
グラウコス
信じられないのならこのまま俺を殺してもいいんだ。
(諦めたようなグラウコスの顔に謎の寂しさを感じる。)
【プレイヤー】
…それはできません。
グラウコス
君のおかげで俺は生き続けることになったが、キルケを止めることはできなくなった。あ、君を憎んでいるわけではないんだ。
グラウコス
これが皆の運命なのなら、そういうことなのだろう。
キルケの声
やめて、グラウコス!
(遠くからキルケの声と共に針と糸が飛んで来るが、相変わらず維持している魔力の結界が防いでいる。)
グラウコス
あの子の言葉は気にしないでくれ。今この瞬間、この舞台は完全の俺のもの、魔女のいたずらも届かない場所となった。
グラウコス
これから新たな神の使いである君に話をしよう。神様が彼らの存在に気が付くように。
グラウコス
さあ、俺に聞きたいことを聞いてくれ…
【プレイヤー】
(…聞きたいことがたくさんある。何から聞こうかな?)