シナリオクエスト

氷に閉じ込められた過去

マデリン
イーオー様、ナリンさん、何事ですか?
イーオー
ここで何か変わったことはありませんでしたか?
ナリン
マデリン、何事もなかったですか?
マデリン
ちょっと変わったことがありました。
まだここに泉があるかどうかはわかりませんが、言われたとおりにずっと見守っていたのです。
マデリン
そしたら、確かに水の流れと気が変わってきたのです。
イーオー
やはりマデリンに任せて正解でしたね。
ここにガレットからの差し入れがありますから、時間がある時に食べてくださいね。
マデリン
ありがとう、イーオー様。
ナリン
ガレットがマデリンの好きなものだけをたくさん包んでいましたよ。
マデリン
…………
マデリン
ところで、この方は…
【プレイヤー】
初めまして【プレイヤー】と言います。
イーオー
もしかしたらマデリンは知っているかもしれませんね。
マデリン
ランダインを倒した方ですね…その節はありがとうございました。
ああでもしなければ、彼はもっと恐ろしい怪物になっていたでしょう。
【プレイヤー】
それは…
マデリン
あまり気にしないでください。
冒険者さんはすべきことをしただけなのですから。
【プレイヤー】
(マデリンの顔が複雑な表情をしているように見えるが…)
マデリン
イーオー様は泉に行くおつもりなのですか?
イーオー
はい。ですが、前とは状況が違うでしょうね。
そこでマデリン…あなたにお願いがあります。
マデリン
はい。
(イーオーがマデリンに小さな氷のかけらを渡す。)
イーオー
もしこの氷が溶けたら、すぐに村に行って私の屋敷に火をつけなさい。
そして…村人たちと一緒にマルスに向かうのです。
マデリン
えっ?
イーオー
そうすれば…バルドリックおじさまがきっと助けてくれるはずです。
マデリン
イーオー様…
イーオー
あまり心配しないでください。
ナリンも一緒にいます。それに…【プレイヤー】も。
イーオー
私は愛する人たちを必ず守って見せます。
マデリンも知ってるでしょうよ?
(イーオーが笑ってマデリンの肩をたたく。)
ナリン
イーオー…
【プレイヤー】
(強い人だ…)
イーオー
ナリン、【プレイヤー】、行きましょう。
ナリン
結界がナリンを遮っている。
前はただ防いでいただけだったけど…今はナリンを拒否している?なんでナリンだけ…
イーオー
ナリン…少し待ってて…
(イーオーが手を伸ばす。そして何かを感じたのか不快そうな表情をする。)
イーオー
ナリンだけ行けないなんて…【プレイヤー】…ここに手を伸ばしてみてください。
【プレイヤー】
ここに何かあるのですか?あ…ここ…
イーオー
何か感じますよね?これは…
【プレイヤー】
はい…間違いありません。
イーオー
ナリン。マデリンと一緒にここにいて。
あなたがここにいれば雪原とゲルダは安心だから。
そして何かあったらマデリンと一緒に…
ナリン
わかったよ。気を付けてね。
イーオー
ありがとう、ナリン。【プレイヤー】、行きましょう。
マデリン
行ってらっしゃい、イーオー様、【プレイヤー】さん。

(氷の間から見える小さな水路がどこかへと流れ込んでいく。視野の間に見える水が汚染されているのか異常な色に染まっている。)
イーオー
気をしっかり持ってくださいね…この気は…
【プレイヤー】
はい、気をつけます。
あ!あっちに水滴が…
(木霊の泉に入るやいなや、つらら監獄で見た同じ水滴が下から立ち上る。)
【プレイヤー】
精霊ですね。
イーオー
そうですねね、リリオープは精霊です。
エコーーの従者…だからといって見くびってはいけませんよ。
イーオー
リリオープは上級の精霊です。
女神の心象世界に留まるハルモニアとガイスほどではありませんが。
(水滴がゆっくりと集まって、リリオープの姿に変わる。)
リリオープ
イーオー様…お許しください。
イーオー
いったい何を許せと言うのですか?
これもあなたの意志ではないと言いたいのですか?
【プレイヤー】
(あの精霊…口とは違う行動をしている。今にも攻撃しそうな勢いだ…イーオーも気づいているはず。)
リリオープ
私の意志ではありません…全部…
イーオー
そうですか。
リリオープほどの上級精霊を操るということは、相当強い力を持っていますね。
ですが、神は精霊にこんなことはしないはず。
リリオープ
…………
イーオー
出て来なさい。いったい何を企んでいるのですか?
(地面から氷がしずくのように跳ね上がり、逃れようとするリリオープを包んで凍らせる。そしてその中の一滴がエコーーの姿へとゆっくりと変化する。)
エコーー
ああ…私を助けに来てくれたのですね。
(しばらくして、凍ったリリオープの体が、ひび割れて粉々になる。)
イーオー
…………
【プレイヤー】
…………
イーオー
エコーー…あなたはいったい何が目的なのですか?
エコーー
ああ…イーオーが私を助けに来てくれた。
これは私の意志ではありません…でも大丈夫。
私のリリオープはまだあるのですから。
(エコーーが笑顔で力強く羽ばたきをする。だが、片方の翼がまともに動かず苦しんでいる。)
エコーー
ああっ…これも全て…私を助けてください…私を助けて…早く泉の先に来て…
(苦痛を訴えていたエコーーの姿が凍る。しばらくすると、エコーーは水滴のように散らばって、木霊の泉のどこかへと流れていく。)
イーオー
…………
【プレイヤー】
リリオープは怯えていましたが、エコーーは…楽しんでいるように見えました。
イーオー
私も同感です。
アルゴスおじさまのように束縛されたかのように演じていた…。
イーオー
…………
【プレイヤー】
イーオー?
イーオー
もう騙されません。エコーーの話はもっと聞かなければならないですが…。
イーオー
行きましょう、【プレイヤー】。
木霊の泉は入り組んだ道が多いので気をつけてください。
精霊たち以外にここの道を知っている人は私しかいないのですから。
【プレイヤー】
はい、急いで行きましょう。
あの精霊が何かをしでかす前に…
イーオー
きれいな水の流れに沿って行けば…
イーオー
…………

(きれいな水が止まった場所。紫色に染まった氷と水が混ざり合い、不快な感じがより強く感じられる。)
【プレイヤー】
これは…
イーオー
エコーーもこれ以上は否定できないでしょう。
この力を受けた者が二人もここにいるのですから。
イーオー
それではエコーーに出てきてもらいましょう。
(話が終わるやいなや、イーオーの手に巨大な氷の結晶が立ち上る。)
イーオー
エコーー…あなたでは耐えられないはずよ。
(イーオーが手を振ると、巨大な氷の結晶が彫刻され泉のあちこちに落ちる。しばらくすると、氷の結晶が溶けて神聖な力が広がっていく。)
【プレイヤー】
…女神に会った時と似たような感じだ。
イーオー
浄化の力です…
エコーー
ぎゃあああっ!!
【プレイヤー】
(精霊の悲鳴…)
イーオー
さあ、出て来なさい。
エコーー
ううっ…
(氷の結晶が集まってエコーーの形を作り出す。現れたエコーーは苦しそうに体を抱えながら力なく立っている。)
エコーー
私を助けに来てくれたのは嬉しいです…ですが、ここを浄化してはいけません…
イーオー
なぜダメなのですか?
エコーー
そんなことをしたら私は外に出られなくなります。
この力が…私が外に出られるようにする手段なのですから。
(エコーーがにやりと笑うと、浄化の気が跡形もなく消し飛ぶ。そして不吉な力がさらに強まり、巨大なつららを作り出す。)
イーオー
…あなたはいったい?
エコーー
………
エコーー
ありがとう、あの子までここに連れてきてくれて。
今まで集めてきたこの力で、その子を消滅させましょう。
エコーー
私をここに閉じ込めて永遠に出て来られなくした…
(巨大なつららがゆっくりと空に向かって浮かび上がる。)
イーオー
あなたはまさか…
【プレイヤー】
あの精霊は何を…
イーオー
それでナリンを殺そうと?
エコーー
…あの子が死ねば、デボラのすべての雪と氷が解けるでしょう。
あなたもそれを望んでいるのでしょう?デボラの生命が雪と氷から抜け出すことを。
イーオー
あなたは束縛の力のせいでおかしくなったのね。
エコーー
私はおかしくなんてなっていません。
あなたが友達だと勘違いしていただけ…
エコーー
…………
エコーー
時間が経てばあのつららは落ちるでしょう。
ありがとう…私を信じてここまで来てくれて。
【プレイヤー】
…信頼を餌にするなんて…精霊とは思えないな。
エコーー
言っていなさい。私は外に出なければならない。
私を閉じ込めた者たちに復讐しなければならない!
【プレイヤー】
イーオー!早く泉の入口に行ってください。
イーオー
【プレイヤー】…ですが…
【プレイヤー】
心配しないでください。あの愚かな精霊は私が何とかして倒します。
【プレイヤー】
ですからイーオーは急いで外へ!
イーオー
…本当に大丈夫ですか?
【プレイヤー】
はい。さあ急いでください!
イーオー
わかりました。お願いします。
(イーオーが去るまで、エコーーはじっとその姿を見守る。そして静かに顔をそむけて【プレイヤー】に視線を合わせる。)
エコーー
…もうこの世界は終わりです。彼の意のままになる前に、私はここを抜け出します。
【プレイヤー】
…バイスの話ですね。
エコーー
…………
【プレイヤー】
否定しないところを見ると合っているようですね。
では、お相手しましょう。
少なくともあなたのその選択が間違っていることを証明しなくては。
エコーー
人間風情が…
(エコーーが閉じていた目を開くと、泉の周りに漂っていた束縛の気が強まる。)
【プレイヤー】
(長引くと危険だ。早く終わらせなければ。)

エコーー
きゃあああっ!!
(精霊の苦しそうな悲鳴が泉全体に響き渡る。こだまのように繰り返される音が、聞く人さえ苦痛に感じるほどだ。)
【プレイヤー】
もう諦めてください、エコーー。
エコーー
…………
(エコーーが座り込んだまま、苦しそうな表情で体を抱きかかえている。)
【プレイヤー】
もうあなたにできることはありません。
束縛の力を利用したことは間違いだったと気づいたでしょう?
エコーー
私はただ外に出たかっただけ…この世界を離れるなと神に言っただけなのに…なぜ罰を受けなければならない…?
【プレイヤー】
(古代の精霊なのか?確かに普通の精霊ではないようだ。)
【プレイヤー】
それで束縛の力で外に出ようとしたのですか?
エコーー
それの何が間違っているのですか?
【プレイヤー】
束縛の力を使ったのですよ?
今まで束縛の力がイーストランドに何をしたのか知らないのですか?
エコーー
ここを出て行けるのならば、束縛の力でもかまわない。
バイスがくれた力はゲルダまで行けるようにしてくれたのですから。
エコーー
精霊の力と束縛の力が一緒になれば、私をここに閉じこめた存在に復讐も可能です。
それで束縛にかかったアルゴスを起こして、イーオーとあの子をここまで来させることができたというのに!
エコーー
お前だ…お前が全部台無しにした!!ゴホッ…
(エコーーが叫ぶと氷の羽が落ちる。)
エコーー
お前が全部…台無しに…
【プレイヤー】
…………
【プレイヤー】
アルゴスが言ったことは嘘ではなかった…。
あなたはイーオーを欺いて長い間友達のふりを…
エコーー
…………
エコーー
私は…
エコーー
束縛の力さえ使えばここから出られると彼が言ったから…私はそうしただけなのに…
エコーー
イーオーの大切なものを失くすことになるなんて思わなかった。
エコーー
私をあんなに大事にしてくれた…イーオー…
エコーー
うっ…ううっ…
(エコーーが苦しみながら震え出す。そのそばで泉を覆っていた束縛の気が動き出す。)
【プレイヤー】
おかしい…何かが…
【プレイヤー】
いったい何が起きているんだろう?
エコーー
バイス…私を殺しなさい!さあ!
(エコーーの叫びとともに、水流から巨大なしぶきが立ち上る。そしてその姿を見ていた【プレイヤー】の体を遠くへと吹き飛ばす。)
【プレイヤー】
えっ?!これはいったい…
(ドーンという音とともに泉の宙に浮いていた巨大なつららが落ちてくる。)
【プレイヤー】
…………
【プレイヤー】
つららが急に…
(エコーーがいた場所には割れた氷のかけらが散らばっているだけで、エコーーの存在は跡形もなく消えていた。)
【プレイヤー】
…………
【プレイヤー】
最後に確かにバイスと言った…
(水飛沫が立ち昇る氷の切れ間から、不吉な力の持ち主がゆっくりとこちらに歩いてくる。)
バイス
久しぶりだな、【プレイヤー】…。
【プレイヤー】
バイス…
バイス
愚かな精霊…束縛の力に苦しみながらも、あの女のためにこのような選択をするとは…。
【プレイヤー】
いったい何をしたんだ!?
バイス
ただ束縛の力を分け与えただけだ。
あの精霊がそれを使って泉を汚染させ、雪男と人々にかけてしまった。
バイス
他の人格を持った者たちは、互いに争い殺し合い…生命の力を俺に捧げた…ただそれだけだ。
【プレイヤー】
…お前はいったい何が望みなんだ?
アズラエルが何だって言うんだ?
バイス
異世界の者が愛する世界…俺も少しずつ忘れていくだろう…その契約のために…
バイス
武器を持つ手の力を抜け。
ここで貴様が死んでしまったら、女神が悲しむだろう?
【プレイヤー】
…………
バイス
まもなくアヴァロンで会うことになるだろう…待っている。
(バイスが不吉な笑みを浮かべると、どこからか現れた紫色の炎が燃え上がる。炎はバイスを包み、【プレイヤー】の目の前から跡形もなく消える。)
【プレイヤー】
バイス…
【プレイヤー】
…………
【プレイヤー】
そういえば泉の中から感じた不吉な気がすべて消えた。
エコーーがいなくなったから?それともバイス?
【プレイヤー】
もしデイモスがアヴァロンに現れるとしたら…
【プレイヤー】
まずは外に出てイーオーに会おう。
考えるのはその後でも遅くない。
【プレイヤー】
…………
【プレイヤー】
あれは…エコーーの翼…?
【プレイヤー】
…持って行ってイーオーに見せよう。
【プレイヤー】
…………

ナリン
…………
イーオー
つららが…消えた?
マデリン
不吉な気も消えました。
あの…イーオー様、ナリンさん?そろそろお二人の間から出たいのですが…。
(手をつないで結界を張っていたイーオーとナリンの間に挟まっていたマデリンが手を挙げる。)
イーオー
ああ…ごめんなさい。
イーオー
…………
イーオー
バイスが来ていたようね。
ナリン
ここまで来て何もしなかったってことは…
イーオー
いつも通りに何かをたくらんでいたのよ。
ある程度の予想はできてるけど、今は【プレイヤー】に聞いてみよう。
ナリン
うん。あ…また大地が凍り始めた。
イーオー
凍っている状態が正常というべきなのか…私の立場では正常なのだけど…
ナリン
…。
(ナリンが空を眺めて急に座り込む)
イーオー
ナリン?どうしたの?
ナリン
…………
マデリン
大丈夫ですか?
ナリン
よくわかりません。
私はなぜこうしているのか…
マデリン
本当に大丈夫なのですか?
ナリン
大丈夫だと思います…うっ。
【プレイヤー】
イーオー、ナリン!
今戻りました。ナリン?何かあったのですか?つららは消えたはずなのに…
イーオー
その手に持っているものは何ですか?
【プレイヤー】
これは…
【プレイヤー】
(イーオーにエコーーと会ったことを話し、エコーーの翼と思われるものを見せる。)
イーオー
エコーーの氷の翼…束縛の気がたくさんこもっている…
ナリン
…………
ナリン
これは…
イーオー
ナリン…どうしたの?
ナリン
あの…これをナリンが使ってもいいですか?
イーオー
束縛の気がまだ残ってるけど大丈夫?
ナリン
問題ないよ。ナリンに使わせて。
イーオー
わかったわ。
マデリン
私に何かお手伝いできることはありますか?
ナリン
1時間ほど経ったらナリンたちを起こしてください。
もし起きなければデボラの雪を使ってください。
【プレイヤー】
眠るってどういう意味ですか?
マデリン
はい、わかりました。
(ナリンの持っていた巻物を広げ、その上にエコーーの氷の翼をのせる。しばらくすると、氷の翼が溶け始め、小さなしずくとなって空へと舞い上がる。)
【プレイヤー】
これは…
(イーオーとナリンが何事もないように並んで氷の岩にもたれて目を閉じる。)
【プレイヤー】
(急に眠くなってきた…どうし…て…)
マデリン
心配しないで目を閉じてください。痛くなんてないでしょう?
ナリンさんとイーオー様が大丈夫だとおっしゃっていたじゃないですか。
【プレイヤー】
…うん。
(マデリンが睡魔に抵抗する【プレイヤー】にそう言うと、視界に巨大な雪の塊が飛び込んでくる。)

イーオー
無事に着いたようですね。
(イーオーが倒れた【プレイヤー】の顔をじっと見つめ、顔についていた雪を取り除く。)
【プレイヤー】
うう…ん。何が起こったのですか?何かに殴られた気がしたのですけど…。
イーオー
気のせいですよ、【プレイヤー】。
【プレイヤー】
その割には、なんだかひりひりするのですが。
イーオー
不思議なことなんてこれまでたくさん経験したじゃないですか。
今回もそれと同じです。
【プレイヤー】
え?あ…はい…
【プレイヤー】
(イーオーもやっぱり何かを知っているようだ。)
ナリン
ごめん…知らなかったんだ。
エコーーの翼が持っていた記憶があの時の時間だったなんて。
イーオー
大丈夫よ。仕方ないわ。
あ…【プレイヤー】。あとは静かに見てればよいですよ。ただ…見ているだけ。それだけですべてがわかるはず。
【プレイヤー】
…はい、わかりました。
イーオー
これを見終わったら、私はまたバイスを呪うのでしょうね…。
イーオー
…………
ナリン
…………
(イーオーとナリンが目を合せて、もう一度前を眺めると彼らの姿が跡形もなく消えた。)
【プレイヤー】
えっ?
(ただ白い雪と氷だけのデボラの風景が広がっている。そんな雪原で聞き覚えのある声が聞こえてくる。)
???
これ?…いやこれは違う。
【プレイヤー】
…エコーーの声だ。
エコーー
…これは私じゃない。
エコーー
私はただ外に出たかっただけ…私が望んだことはこれではない。
エコーー
私…私は…
エコーー
バイス…あなたが私の望みを奪った…。
バイス
…………
バイス
俺は貴様の望みを奪ってなどいない…奪ったのは別の生命だ。
バイス
貴様は世界の力を取り込んだ時から知っていた。
エコーー
違う…違う…私…私は…
(エコーーがそう言うと、周囲に巨大な氷の結晶が浮かび上がる。バイスを突き刺すかのように飛んでいくが、バイスの前で溶けて消えてしまう。)
バイス
…………
バイス
その昔…ある好奇心旺盛な精霊が時空の隙間を眺めているうちに、異世界の気に心を奪われていった。
バイス
それを憂慮した他の精霊に逆上し、つららでその目を刺すという事件が起きた。
バイス
この事件を知った水と氷の精霊王は怒り、その精霊を追放した。
だが、その精霊の心は異世界の魅力から離れることができなかった。
エコーー
…………
バイス
ある時、精霊王がこの場所を訪れた。
精霊は過ちを悔やんでいるかのようにその精霊王に近づき、束縛をかけた…。
エコーー
バイス
精霊王は何とか泉の外へと出たが、そこで忽然と姿を消してしまった。
精霊は消えた精霊王を探すために、復讐に訪れた人間と雪男を利用することにした。
エコーー
やめて!…それは違う…。
バイス
…………
バイス
いや…これは偽りのない事実だ。
バイス
仮面をつけた人間はたくさんいるが、精霊は初めてだな。
復讐の女神ネメシスにでもなろうとしたのか?
エコーー
やめろ…それ以上近づくな…
バイス
束縛の力はこの世界の生命が持つ最も醜いもの…今、その力は俺とつながっている…。
エコーー
消えろ!!
(大地から湧き出た巨大な氷片が、バイスの心臓を貫かんと襲いかかるも、目の前で粉々に砕け散った。)
バイス
…精霊ふぜいに消えろと言われて消える俺ではない。
バイス
…………
エコーー
うっ…動け…ない。
バイス
美しき精霊の翼…
バイス
…………
エコーー
な…何を…
バイス
飛ぶ必要のない者には不要だな。
(バイスがエコーーに近づき、翼をつかんで無造作に引きちぎる。エコーーの片翼は凍ったまま霧散した。)
エコーー
ギャアアアア!!
(精霊の絶望の悲鳴が泉に響き渡る。 )
バイス
貴様が望んだ束縛の力によって拘束される気分はどうだ?
さあ、俺の意のままに生命の力を集めるがいい!
バイス
貴様を助けようとしたゲルダの人間と雪男を利用し、凄惨な殺し合いをさせたあの時のように!!
バイス
そして…時が来れば再び目を開き、役目が終われば再び目を閉じるのだ。
あの惰弱な女神のように…。
バイス
…………
(苦痛を訴えていたエコーーの動きが止まる。そして目を閉じたまま、バイスがいる方に顔を向ける。)
エコーー
…………
エコーー
はい。わかりました、バイス様。
(【プレイヤー】の視界が吹雪で覆われる。そして、バイスとエコーーの姿をゆっくりとかき消してゆく。)
【プレイヤー】
…………
【プレイヤー】
(こんなことが…なぜ超人と呼ばれる人たちは、こんな目に遭わなければならないのだろう。)
【プレイヤー】
なぜ…
【プレイヤー】
…………