シナリオクエスト

魅惑の薔薇

ベレト
【プレイヤー】、来ないで……。
(ベレトが歪んた顔で片目を隠している。)
【プレイヤー】
ベレト?
ベレト
それ以上近づかないで……。
【プレイヤー】
……。
【プレイヤー】
(これは悪魔の力だ。デゴスやマルパスに会った時と似ている…でも最初はこの力は感じなかった。)
【プレイヤー】
……。
ベレト
我慢するだけで精いっぱいなんだ…!
だから…来るな!ぐっ……こんなの……!
ベレト
ぼくは望んでいない……!
ベレト
早く…ローゼンガルテンへ!
ローゼンガルテン向かってくれ!
そうじゃないと……!ああああああ!!!
(ベレトの絶叫と共に彼の目から血が流れ始める。)
ベレト
ロ、ローゼンガルテンは昔フォボスの人達が使っていた井戸と繋がってる。
薔薇の蔓と花びらが落ちているから…す、すぐ見つかるはずだ……。
ベレト
そこで…このネックレスに付いた装飾を持って来てくれ。
じゃないと……。ぼくはこの手でペオニアを……。
ベレト
ぼくはぼくだ。
お前はぼくの主じゃない……!
ぼくは……。ぼくは……。
(話の途中でベレトの体が固まって行く。)
【プレイヤー】
ベレト……。
???
ここに存在する人間達の魂を持って来い……。
せいぜい私のために働いてこい。
お前は再び私の下へ戻ってくるのだからな……。
(どこかでベレトに似ている声が聞こえる。)
【プレイヤー】
(これはきっと…フォボスに来る前に見たあの者の声…)
(続いて声の持ち主がぼやけて見える。)
???
フン、人形ごときが私に意見するな。
まったく……何故人間にそう肩入れするのか……。
【プレイヤー】
そうだ。お前は……。
???
そこの人間。私が―見えるのか?
……なるほど、あの時の視線はお前のものだったわけだ。魔界の領域を見るとは、肝が座っているじゃないか。
【プレイヤー】
お前は…誰だ?
私を知ってるのか?
???
無礼だな。
まずは自分から名乗るのが礼儀だろう。
まあ、いい。確かに私はお前を知っている。
アスモデア
私はローゼンガルテンの主であり、夢魔達の支配者、「アスモデア」。
リリスに会ったのならば、私の名前は聞いているのではないかな?
【プレイヤー】
ああ…アスモデア。
アスモデア
リリスを向かわせて正解だったよ。
お前の力は見せてもらった。
【プレイヤー】
……向かわせた?リリスの意思じゃなかったのか。
アスモデア
夢魔を操ることなど造作もない。
私の誘惑によって、自らの意志だと思い込んでいたようだがな。
【プレイヤー】
……。
アスモデア
フフ……ここまで言葉を交わしても私に魅了されないのか……。
面白い。随分と強い魂を持っているようだ。ますます欲しくなった……。
(アスモデアが微笑みながら手を伸ばす。指先から一輪の薔薇が咲く。)
アスモデア
君を正式に「ローゼンガルテン」に招待しよう。
【プレイヤー】
(この濃い薔薇の匂い…あっちか…)
アスモデア
君を魅了し、その魂を捧げてもらうことにしよう。フフ……
【プレイヤー】
断る。
アスモデア
君の意見は求めていない。
アスモデア
だが…断るのであればこちらも迎えを出さなければいけなくなるな。
さらに多くの悪魔とモンスターをフォボスに向かわせるとしよう。
アスモデア
さてどうしようか?
私はどちらでも構わないよ?
【プレイヤー】
悪魔らしいな……。
アスモデア
フフ…褒め言葉として受け入れよう。
アスモデア
君が訪れる時を……楽しみにしているよ。
(アスモデアがもう一度微笑むと、掌の薔薇が灰となり、風と共に消えた。彼の姿ももう見えない。)
【プレイヤー】
なんだか大がかりな招待だな。
【プレイヤー】
……。
【プレイヤー】
……。
こういう時、シルバリア帝国の皇帝陛下が「全てうまくいく」とか予言してくれればいいのに……。
【プレイヤー】
……。
【プレイヤー】
まぁ元々行くつもりだったんだ。行ってみよう……。

(歩みを進めると、暗闇に明るい光が指す。)
【プレイヤー】
ここがローゼンガルテン……。
【プレイヤー】
まるで夢みたいだ。
暖かな日差しに美しい薔薇が溢れる庭園……。
【プレイヤー】
まるで貴族の邸宅のような……。
バルドリック
なるほど、ここが魔界か…。
よう兄弟。やっと来たな?
【プレイヤー】
うわ、いつの間に!?
バルドリック
たった今だ。
ここは…薔薇の香りが濃いな。
【プレイヤー】
それより兄弟?
バルドリック
おいおい冷てぇな。戦場を共にするんだ。
一蓮托生、兄弟みたいなもんだろ?
【プレイヤー】
そう呼ばないでください…ってお願いしても無駄ですよね?
バルドリック
ガハハ!残念だったな、諦めろ!
【プレイヤー】
…もしかして、私の名前を忘れた…ってわけじゃないですよね?
バルドリック
……。
ガハハハハ!細かいことは気にするな!
なあ、兄弟!?
【プレイヤー】
(絶対忘れてるな…)
バルドリック
んで……あの後何かあったのか?
そんな顔してるぜ?
【プレイヤー】
はい。実は……
【プレイヤー】
(バルドリックにベレトに起きたことを話す。)
バルドリック
なるほど。面倒なことになってるらしいな。
……ん?
【プレイヤー】
バルドリック、どうしましょう?
道が二つに分かれています……。
バルドリック
同じこと考えてるんじゃないか?
【プレイヤー】
はい……。
バルドリック
俺は左に行く。お前さんは右に行ってくれ。
あ、もしクラウスを見つけたら一緒に行動してくれ。
【プレイヤー】
でも、クラウス市長がどんな人か知らないんです。
バルドリック
赤い髪に青い瞳、身長は俺くらい。
とにかくイケメンだ。
何かがあるときは金色の鎖が付いた鎧を着るからすぐわかるはずだ。
【プレイヤー】
わかりました、探してみます。
バルドリック
幸運を祈る、【プレイヤー】。
【プレイヤー】
はい…って、あれ?
私の名前、覚えてるじゃないですか?
…って、もういないか。
【プレイヤー】
……。
【プレイヤー】
とりあえず先に進もう。

(薔薇の庭園の行き止まりの路地、その先で、アスモデアが高級そうなテーブルセットに座っている。)
アスモデア
思っていたよりも早いな。良い心がけだ。だが、ティータイムが始まったばかりでね。
少しだけ楽しませてくれ。
【プレイヤー】
……客を待たせてティータイムか、良い身分だな。

アスモデア
……。
(短い静寂の後、アスモデアの口元から一筋の血が流れる。)
アスモデア
そんな…………ゴホッ。
アスモデア
魔神「フォボス」が消滅するとは……。
一部とは言え、デイモスの双子の兄弟であるフォボスが……。
【プレイヤー】
……。
アスモデア
グッ……カハッッ!
(アスモデアが血を吐き、膝を付く。)
【プレイヤー】
……私の、勝ちだ。
アスモデア
ゴホッ………ハァ…ハァ…。
【プレイヤー】
一つだけ答えてくれ。
アスモデア
…バイスに関することか?
【プレイヤー】
ああ。
アスモデア
大した話ではない…ゴホ…うっ。
アスモデア
彼の召喚に答えただけだ。
【プレイヤー】
(悪魔召喚の代価は魔石なのか?)
【プレイヤー】
生命の力が溢れる魔石を求める悪魔……。
【プレイヤー】
…!?
そういうことなのか?
【プレイヤー】
お前の魂は欠けていた……それで力に問題が生じたのか。
だから、他の方法で力を補う必要があった。
アスモデア
……。
【プレイヤー】
認めたくないという顔だな。
アスモデア
魔界では弱い悪魔はすぐ飲み込まれてしまう。
生きるためには……。
【プレイヤー】
生きるために仕方なく取引をした?
アスモデア
私はこのままでは終われない。
力を取り戻し、ローゼンガルテンだけでなく、パンデモニウムを……。そしてデゴス、ルクスを……!
アスモデア
ああ!
くうっ………グアアアアァッッ!
【プレイヤー】
な、なんだ?
(アスモデアの叫びがローゼンガルテンを揺らす。
そして、フォボスとマルスを映す穴が生まれた。)
アスモデア
ローゼンガルテンよ。美しさを捨て、フォボスを飲み込め!
フォボスの全ての魂を私に捧げよ!
(アスモデアの言葉と共にローゼンガルテンの美しい薔薇たちは枯れはじめ、腐臭を放ちだした。)
【プレイヤー】
こ、これは……。
アスモデア
美しいローゼンガルテンを失いたくはなかったが、それで私の力の糧となるのなら……。
アスモデア
がはっ…!わ、私の体が……!?
まさか……人形……私の力と魔石で造られたお前が、よくも……。
ベレトの声
(アスモデア。お前がぼくに干渉できるように、ぼくだってお前に干渉できる…!これだけ弱っている今のお前なら、簡単だ…!)
【プレイヤー】
その声は……ベレト?
【プレイヤー】
アスモデアの体が固まっていく……。
アスモデア
バイス…お前を許さな…………。
(体が固まったアスモデアの指先から突如炎が燃え上がり、全身へと広がっていく。)
【プレイヤー】
……………。
(燃え果てて灰と化した美しい悪魔は風と共に散り、彼がいた場所には薔薇の形のペンダントだけが残った。)
【プレイヤー】
……。
【プレイヤー】
これがベレトの言っていた物なのか?
とりあえず持っていくか。
【プレイヤー】
……。
【プレイヤー】
あとはバルドリックを探して……あれ?

(ペオニアが固まったまま立っているベレトを寂しそうに見つめている。)
ペオニア
ベレト…?
ペオニア
どうして何も答えないのよ?
ペオニア
……。
ペオニア
マルスの前をウロチョロしていた悪魔達が消えたから、ベレトに何か起きたのかと思って来たのに……。
ペオニア
ベレト……。
ペオニア
ごめんね……。
あたしのせいでこんなことに……。
バルドリック
到着!!!
【プレイヤー】
……死ぬかと思った。
ペオニア
バルドリックさん?
【プレイヤー】?
どうしてここに……。
バルドリック
ようペオニア、久しぶりだな。
我が弟がベレトに渡すものがあるらしくてな。
ペオニア
兄弟…ですか?
バルドリック
生死を共にしたんだ、兄弟みたいなもんだろう。
ペオニア
一体何が起きたんですか?
【プレイヤー】
それが、ちょっと複雑で……。
ペオニア
話して、【プレイヤー】。バルドリックさんと一緒にいるってことは、普通のことじゃないでしょ?
【プレイヤー】
(ペオニアにフォボスであったことを簡単に説明する。)
ペオニア
……。
ペオニア
市長が消えたのはそういう理由だったのね。
何かがあるとは思ったけど、でも市長の机でこれを見つけたのよ。【プレイヤー】の話を聞いて納得したわ……。
【プレイヤー】
はい。デイモス教団の魔石……。
ペオニア
マルスの住民達の代わりにお礼を言うわ。
バルドリックさんもありがとうございます。
ペオニア
市長のことはあたしから皆に話すわ。
住民達を説得するのは大変かもしれないけど…おじさん、バルドリックさんに関する誤解もちゃんと解きますから。
ペオニア
そして……。
【プレイヤー】
ベレトは大丈夫ですよ。
ペオニア
本当に?
【プレイヤー】
ベレトが私を助けてくれたんですから。
【プレイヤー】
はい、ベレト。
約束通り赤い薔薇のペンダントを持って来たよ。
(【プレイヤー】の掌からペンダントが宙に浮きベレトの方に向かう。ペンダントが彼の胸に触れた瞬間、彼を阻んでいた何かがバラバラに砕け散った。)
バルドリック
奴は……。
【プレイヤー】
バルドリック、今は静かに。
バルドリック
ああ、わかった。
(止まった時間が流れるようにベレトの瞳が動き始める。)
ベレト
あ……。
ベレト
終わったの、かな?
ペオニア
……。
ペオニア
本当に大丈夫?
あたしが見える?
ベレト
うん、ぼくは大丈夫。
そしてありがとう、全部聞いてたよ……。
ペオニア
……。
ペオニア
い、いいわ。
本当に、大丈夫なのよね?
ベレト
うん。大丈夫。
けど……ぼくは、悪魔じゃない。人間でもない。
なら……。
ペオニア
ベレト……。
ベレト
…ぼくっていったい何なんだろうね……。
ペオニア
本当に大丈夫なのよね?
ベレト
うん。それより今は……。
(ベレトの視線が冒険者とバルドリックに向かう。)
ペオニア
わかった、二人と話があるのね。
それじゃああたしは……。
ベレト
待ってるよ。
いつも通り……。
ペオニア
わかったわ…それじゃあ私はマルスに戻るわね。
ペオニア
【プレイヤー】、ありがとう。
【プレイヤー】
いいえ。
ペオニア
そしてバルドリックさん。
ご馳走を作りますから絶対来てくださいね。ごめんなさい。
バルドリック
謝る必要ない…いいんだ。お前さんのせいじゃない…それじゃあ、またな。
(バルドリックがペオニアが見えなくなるまで手を振る。ペオニアの姿が見えなくなると、ベレトが静かに近づいてくる。)
ベレト
2人には、ぼくと一緒に行ってほしい場所があるんだ。
【プレイヤー】
危ない場所じゃないですよね?
ベレト
見せたいものがあるんだ。
バルドリックも行こう。
バルドリック
俺は見なくていいと思うが、いいだろう。
ベレト
行こう。
(ベレトがバルドリックと【プレイヤー】の手を繋いだ瞬間、視野に入る風景が変わる。)
【プレイヤー】
これは……。

(暗闇の中からアスモデアの声が聞こえる。)
アスモデア
私に似せて魔石で作った人形。
これさえあれば私を闕乏を補うことができるだろう。
(アスモデアの前にベレトと似た姿の者がいる。)
アスモデア
…ベレト。
そう。お前はベレトだ。ローゼンガルテンを開拓した偉大なる方の名前を贈ろう。
アスモデア
ローゼンガルテンを守るため、私の力を示すため……私の力となれ。
バイス
悪魔達にも魂があるのか。だが、欠けているな。そのせいで力の一部を失ったか。
アスモデア
……。
バイス
それを他の悪魔に隠すために外法を頼るか……面白い。
アスモデア
招待した覚えはないが……まさか時空間をこじ開けてローゼンガルテンに訪れる者がいるとは、歓迎しよう。
バイス
結構だ。少し寄り道をしてみただけだ。
アスモデア
……お前、何者だ?
お前から、アガシュラの首長に次ぐ力と古代神が残した力を感じる…そんなことが可能なのか?
バイス
すべては必然だ。なるべくしてなっただけのこと。
アスモデア
ククッ、面白い男だな。
私の力を望むのか?
バイス
そうだ。
アスモデア
デイモスを降臨させようとするお前と、彼の兄弟「フォボス」の一部を持っている私。この出会いは偶然か?
バイス
……。
バイス
彼が求めていることだ。
そして、俺が求めていることでもある。
アスモデア
フフ、これもなるべくしてなったわけだ。
バイス
…ひとつ、忠告をしておこう。魔石で作ったその人形が他の場所で目を覚まさないよう祈ることだ。
アスモデア
なぜだ?
バイス
この地の命が持つ魂の力は強い。
そうやって作られた魔石でまた違う何かを創り出し、それに違う力まで混ざっている……。
バイス
お前の予想を超えたことが起きるかもしれない。
アスモデア
フン。まぁ一応は聞いておこう。
だが、ここ以外の場所でベレトが目を覚ますことはないだろうがね。
バイス
……。
バイス
そうなることを祈ろう。
アスモデア
……。
アスモデア
帰ったのか?
悪魔の言葉を話す人間とは、なかなか面白い。
アスモデア
私はこのまま私の人形が目覚めるのを待つとしよう。
そして……。
アスモデア
決して他の場所には行かせない。