シナリオクエスト

少女の記憶(5)

メルビック
冒険者様、お待ちしておりました。
【プレイヤー】
シャイニック様は大丈夫ですか?
メルビック
今は少し安定しているようですが…まだ…
どうやらこのリボンが、シャイニック様の心の何かに触れたようですね…
【プレイヤー】
メディア様が作ってくださった薬を持ってきました。これを…
メルビック
ありがとうございます。ではシャイニック様に薬を…
(メルビックがシャイニックに薬を飲ませる。力が入らず真っ青だったシャイニックの顔が少し和らぐ。)
シャイニック
……ふぅ、死ぬかと思ったぞ。
メルビック
シャイニック様、大丈夫でしょうか?
シャイニック
当然じゃろう。
ワシが死ぬわけがなかろう。
【プレイヤー】
……。
【プレイヤー】
こんな冗談が言えるってことは、元気みたいですね…。
シャイニック
それで…ワシに何をしたんじゃ?
【プレイヤー】
(シャイニックにメディアに事情を説明して薬をもらって来たと説明する。)
シャイニック
なるほど、あの薬か…昔、メルビックに飲ませた薬じゃな。
ワシにも効果があったのか…。
メルビック
ああ…メディア様の薬はあの時私が飲んだ薬だったのですね。
シャイニック
まったく…目覚めるのが数十年後にでもなっていたらどうなっていたことか…
メルビック
…いつもありがとうございます。私がここにいられるのもすべてシャイニック様の…
シャイニック
メルビック、いちいちそんな昔の話で礼を言うな。
じゃが…メディアには礼を言いにいかなければいかんな…。
メルビック
シャイニック様、本当にもう大丈夫なのですか?
シャイニック
心配するな。もう平気じゃ…で、リボンはどこにあるんじゃ?
シャイニック
……。
【プレイヤー】
本当に大丈夫ですか?
シャイニック
平気だと言ったではないか。それよりも…【プレイヤー】、少し付き合え、ワシの…昔話を聞かせてやる。
…メルビック、お主も聞くか?
メルビック
…いえ、私は…ノエルさんと商団のことで話があるので。
シャイニック
わかった。では【プレイヤー】、付いてこい。
お主の疑問に答えよう…そうじゃな、いつもの場所で話すか。
シャイニック
……。

シャイニック
お主の考えている通りの話じゃ…。
【プレイヤー】
はい……。
シャイニック
さて…どこから話すとするか。そうじゃな…
ワシの故郷は、ジュード王国の片隅の砂漠にある小さな村じゃった。ラティンス村…それが、ワシの故郷の名前じゃ。
シャイニック
当時、デイモス教団が勢力を広げるために村を襲撃したが、とある魔法使いのおかげで被害は最小限で済んだのじゃ。
【プレイヤー】
それが…
シャイニック
…その魔法使いは、イクシオンと名乗った。
シャイニック
ジュード王国の大魔法使い…イクシオン。子供達は皆、奴に憧れた。
誰もが、この素晴らしい魔法使いのようになりたいと思うようになっておった。
シャイニック
イクシオンもそんな子供達に、自分が立派な魔法使いにしてあげよう、と…そう言った。
村を救った英雄の言葉じゃ…止める大人もおらんかった。
シャイニック
奴に憧れ…魔法使いを目指す子供達…ワシやエッダもその中の一人じゃ。
自分もジュード王国の魔法使いになれる…と、誰もが夢見ていた…そう、思っていた…
シャイニック
……。
【プレイヤー】
…辛ければ、無理に話す必要は…
シャイニック
いや、最後まで語らせてくれ…話を続けるぞ。
…ワシらはイクシオンの下で魔法使いを目指すことになった。魔法の修行のため、モロスにあるシェルターに連れていかれたんじゃ…
シャイニック
そこでの生活は楽しかった。友と共に学び、励み…
かつてワシらが救われたように…いつか、あの魔法で誰かを救うことができる…そんな希望に満ちておった…
シャイニック
誰一人…奴に与えられた「力」に何の疑問も抱いていなかったのじゃ…。
シャイニック
……。
シャイニック
違和感に気づいた時には、もう遅かった…
シャイニック
ワシらに与えられる「力」の量は増していき…それに耐えられなかった子供の体は、だんだんと…人間とは違う姿に変わってしまった…
シャイニック
ワシには外見の変化はなかったが…「副作用」はあった。
身体が成長しなくなったこと、そして……死ねなくなったこと…。
シャイニック
精神を支配され、戦場で他の者の命を奪うようになったこと…
シャイニック
魔法使いを目指していた子供は、気付けば数千数万の命脈を断つ…恐ろしい兵器となっていた。
シャイニック
…それも暗黒戦争が終わるまで、と思っていた。
じゃが、イクシオンは必要のなくなった子供達を…「処理」し始めた…。
(シャイニックの瞳が揺れる。)
シャイニック
戦争が終わったら故郷に戻れる…そう思ったワシは…イクシオンの束縛が緩んだ隙に全力で逃げた…。
シャイニック
しかし…その緩みも一時的なもの。すぐに、ワシの中の力も暴走した。
その時ようやく理解したんじゃ。
イクシオンを殺さない限り、終わりにはならないと。
シャイニック
あの時のワシは正気ではなかった…周りを気にするような余裕なぞ無かったんじゃ。
しかしそうか…エッダも生きておったのか…
シャイニック
エッダは花と木が好きな子でな。
よく、花飾りなんかを作ってくれた…。
シャイニック
もっと…もっと早く気づいてさえいれば…
もう一度…会えたかもしれんな…。
(シャイニックの目に涙が溜まる。)
【プレイヤー】
大丈夫ですか?
シャイニック
…大丈夫じゃ。それより、まだ話は終わっておらん。
もう少し付き合え。
シャイニック
戦争が終わっても、平穏は戻らなかったんじゃ。
とっくに、故郷はなくなっておった。
ワシは帰る場所を失った…。
シャイニック
じゃが、おかげでこんなに素敵な都市を作ることができた!
ワシを殺しに来るやつらを捕まえては奈落の間に入れてやった…
あのイクシオンも…。
シャイニック
最後はお主に任せることになったがな。
【プレイヤー】
シャイニック様…
シャイニック
まったく…なぜお主がそのような顔をする?
ワシは大丈夫じゃ。…こんな話をするのも、メルビックとメディア以外には初めてじゃな。
シャイニック
とにかく…お主には感謝しておる。
礼を言うぞ。
【プレイヤー】
……。
シャイニック
ああ、それからもう一つ…。
【プレイヤー】
まだ何か?
シャイニック
もともとお主に話すつもりはなかったのじゃが…ふむ…
【プレイヤー】
なんですか?
シャイニック
…やはりやめておこう。
知りたければ、もっとワシを楽しませることじゃ。
…ワシがお主をもっと信用できるように…な。
【プレイヤー】
(……それは…)
シャイニック
とにかく話は終わりじゃ。
これでもう死んでも思い残すこともない。
【プレイヤー】
あの、シャイニック様。
そういう冗談はやめてくださいって…
シャイニック
ふふ…。
【プレイヤー】
ではもう戻ります。今日はゆっくり休んでくださいね。
シャイニック
うむ、また会おう。
シャイニック
……。
シャイニック
墓をもう一つ、作らないとならんな。
…おかえり、エッダ…。ここが…“わたしたちの故郷”じゃ…。
ゴホッゴホッ…。
シャイニック
…シャイニックよ、何故…気付けなかった…。
シャイニック
…ワシやエッダを捕らえたのが…束縛の力だったということを…。