シナリオクエスト

どんな遊戯

???
……!………!!
(真っ黒な闇の中にいる…。体が重い。まるで水袋にでもなったようだ…)
(誰かの視点で記憶を覗き込んでいる)
???
…!

…よ!!
少女
うう~ん…
少女
誰…?
【プレイヤー】
(驚いたことに記憶の中の登場人物に過ぎない少女が私の存在に気づいているようだ)
【プレイヤー】
(だが、どこか危うい脆さを感じる)
【プレイヤー】
(彼女の朦朧とした心の彼方に、ぞっとするような苦痛が見え隠れしている)
【プレイヤー】
(髪全体がボサボサになっていて、ひと目で正気を失っていることが分かる。首の後に冷や汗が流れる…)
???
赤ちゃん…。赤ちゃん…!
少女
お母さ…ん?
女性
あぁ!気がついたのね…!良かった!
女性
この世でたった一人の私たちの可愛い赤ちゃんに、誰がこんなことを…
少女
みんなが…
少女
みんなが…、私のせいでジョアン・ファーム様が天へ上ることが出来ないと…
女性
…そんな!
【プレイヤー】
(女性は何も言わずに少女を抱きしめた)
【プレイヤー】
(少女の意識が遠ざかる…)
【プレイヤー】
(……)
【プレイヤー】
(時が流れたようだ)
少女
(…誰かが、そばにいるように感じる)
少女
(錯覚だろうか…)
【プレイヤー】
(少女に質問してみようか?)

少女
なぜ…
【プレイヤー】
(以前のように、少女の記憶の中に入ってきているようだ…)
少女
なぜ…
【プレイヤー】
(少女の目の前には、美しく着飾った少女が倒れている)
【プレイヤー】
(今より少し幼いけれど、ジョアン・ファームのようだ)
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームは、がたがた震えながら少女を見上げている)
少女
ジョアン・ファーム様…
少女
世界を救ってくれるんじゃなかったの?
少女
どうして、どうして…お母さんにこんなことを…?
【プレイヤー】
(少女は胸に、真っ黒く焼け焦げた何かを抱いている)
【プレイヤー】
(黒焦げの炭の塊だ…)
少女
あなたのお母さんなのに…
少女
どうして…!
少女
どうしてこういうことをしたの?
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームは、がたがた震えながらも不快な表情を浮かべて答える)
ジョアン・ファーム
誰が誰の母親だと言うんだ、この穢れが!
ジョアン・ファーム
お前のような穢れを産んだだけでは飽きたらず、連れて逃げようとした罪は重いわ!
ジョアン・ファーム
私が特別に慈愛を持ってして、この身に宿る神聖な炎で「浄化」してあげたというのに…それを理解できないとは…この虫けらが!
少女
神聖な炎…?
【プレイヤー】
(少女は今きた道を振り返った)
【プレイヤー】
(大きな薪の山が黒く焼け焦げたまま冷えて煙が上がっている)
少女
私の目には、ただの薪の火に見える…
少女
神聖な炎がこんなものだったら…
少女
聖典に書かれた「救い」って、一体なんだったの…?
少女
【プレイヤー】
(少女が振り向いた隙にジョアン・ファームが少女の体に剣を突き刺した)
【プレイヤー】
(しかし、少女は何も感じないようだ)
ジョアン・ファーム
ひっ…!化け物…、お前は化け物よ!
少女
…答えて。ジョアン・ファーム様。私たちの罪は、どのように浄化されるの?
少女
人々はどうやって幸せになるの…?
ジョアン・ファーム
それは…
少女
…?
ジョアン・ファーム
そんなもの、私が知るはずないでしょう!
少女
…………
少女
……何?
ジョアン・ファーム
ここの人間は神の教えに従って、逆らったりしないことを証明するために代々天の花嫁に仕えてきたのよ!
ジョアン・ファーム
聖典の戒律に基づいて正しく生きれば、お前のような穢れた者も神は慈しみ深くおさめてくださるかもしれない
ジョアン・ファーム
だからこれ以上、罪を犯さずに…く…悔い改めて、浄化の運命に従いなさい!
少女
代々…?
少女
ジョアン・ファーム様以外にも、神の花嫁がいたということ…?
ジョアン・ファーム
そうよ…、私は72代目の神の花嫁よ
少女
72代目…
少女
そう…わかった…
少女
「救い」は、人間の想像力。神の花嫁は偽りの象徴。こんな馬鹿げた物語が72回も繰り返されていた…。そういうことね?
ジョアン・ファーム
何…何ですって?
少女
72人の双子がそのような理由で名前を奪われて、幽閉されて生きてきて、十七才になれば燃やされる…
少女
その全てが偽り…
ジョアン・ファーム
…ッ!お前のような穢れが私の体に触るな!この…無礼な…ッ!
【プレイヤー】
(少女は片手でジョアン・ファームの首を掴むと空中に持ち上げる)
少女
このようなのを巫女様と、自分の娘二人が世界を救ってくれるだろうと…
少女
いっそ最後まで信じていたなら、こんなことにはならなかったのに…お母さん…
【プレイヤー】
(少女の手に炎が起こり、ジョアン・ファームの顔を焼いていく)
ジョアン・ファーム
ぎゃあああーッ!!!!熱いッ!!顔が…私の顔が…!
少女
ええ…あなたは神の花嫁。浄化の巫女なんかじゃない…
少女
預言は少し間違っていたみたい
ジョアン・ファーム
ぎゃあああーッ!助けて、助けて!!!熱いぃーッ!!!
少女
私のお姉さんだから、死なせるつもりはない…
少女
この世が終わるまで…燃え続けるようにしてあげる
【プレイヤー】
(少女は燃え盛るジョアン・、ファームの体を床に投げつけた)
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームは瞬く間に炎に包まれて焼け焦げていくが、それでも死ねずに悲鳴を上げてもがき続けている)
少女
そうだ…。お姉さんには、もう必要ないから…その名前、私がもらうね
ジョアン・ファーム
ずっと夢だったの…、名前をつけてもらえることが…
燃える少女
----------!!----------------------!!!!
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームだった少女はもう言葉にならない獣のような声で悲鳴を上げ続ける…)
ジョアン・ファーム
…きっと、最初からこの名前は私のものだったのよ
ジョアン・ファーム
初めまして、私の双子の妹…。「浄化の巫女」としての役目は私がきちんと務めてみせる
ジョアン・ファーム
遙か昔…遠くから見たお姉さんは美しかった…。神聖だった…。本当に尊敬して愛していた…
ジョアン・ファーム
…けれど、今のこの姿がお姉さんには似合っている
【プレイヤー】
(少女…ジョアン・ファームが手を上げると周りのすべてが勢い良く燃え始める)
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームが外にゆっくりと歩いていき、『メモリウム』に刻まれた記憶の風景が徐々に薄れ始める…)
ジョアン・ファーム
フフフ…アハハハ…
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームの悲しい笑い声が遠ざかっていく…)

ジョアン・ファーム
人…?
【プレイヤー】
(地平線の端まで続く赤い荒野。熱気を含んだ陽炎が乱れ咲いている)
【プレイヤー】
(灼熱の熱気は空ではなく大地から…。いや、彼女から始まったようだ)
【プレイヤー】
(足元に転がる石は熱気にさらされて焼けつくような熱さをはらんでいる)
【プレイヤー】
(非現実的な風景の中で、ひとりの老人が岩に腰かけて本を読んでいる)
老人
ついに出会ったのう、浄化の巫女よ
ジョアン・ファーム
……私も嬉しい。人に会ったのは7年振りなの
老人
ほほほ…なるほどのぅ。それならば、浄化の巫女様の力は凄まじかったと語り継がられるじゃろう
老人
60年間、世界の全てが浄化の炎によって燃え尽くされたという話以外にのう
ジョアン・ファーム
えぇ…、その言葉の通り。私の後ろには何もなかった…。世界中を巡り巡って徹底的に燃やし尽くしたわ
ジョアン・ファーム
だからこそ、あなたにどうしても一つだけ聞きたいことがある
老人
ほほほ…、何かね?私が答えられることならば、答えてあげよう
ジョアン・ファーム
……
ジョアン・ファーム
あなたは、神様なの?
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームを見つめていた老人は、困ったように頬を掻いた)
【プレイヤー】
(突然老人から、息をのむような存在感が感じられる…)
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームはすぐにでもひれ伏して老人に礼をしたい衝動を全身に力を込めて耐えた)
【プレイヤー】
(彼女は恐ろしい目で老人をにらむ…)
ジョアン・ファーム
…答えて、私に何をしたの?
老人
ほほほ…。巫女様は何の話をしているのかね?
老人
あなたはあなたが持って生まれた人生の中で、自らの意志で選択をして、今まで生きてきたではないか
ジョアン・ファーム
真面目に答えて!
ジョアン・ファーム
そうよ…お姉さんが、お母さんを…燃やした時…自分の中に炎のように燃え盛る怒りが目覚めたの。その怒りが指し示す通りに行なっただけ…
ジョアン・ファーム
それは…私の罪よ
ジョアン・ファーム
だけど…今のこれは一体何なの!?60年もの間、世界を回り、目に見える全てのものを燃やし尽くす…どうして?こんなこと、私は望んでなんかない!
ジョアン・ファーム
いいえ…最初の時ですら…私は…誰も…殺したいとは…望んでいなかった!!!!
老人
そうか…可哀想に…。だが、お前はお前の内の怒りが命ずるがままに…望んだようにしただろう
老人
聖典に記されていただろう、"神の花嫁が世界を浄化して、すべての罪から解放される"と…
ジョアン・ファーム
罪から解放される…?
老人
そう…。お前の運命は最初からそのために用意されていたもの
ジョアン・ファーム
用意されていた…?
ジョアン・ファーム
どうして…そんなことをするの!?みんな死んでしまった…。罪から解放されるって、どういうことなの!?どうしてそれが幸せだって言うの!?何が聖典に記された言葉よ!
ジョアン・ファーム
こんな…こんなことって…!どうして、みんなが死ななければいけなかったの!?どうして、こんなことを私にさせるの!?どうして…、どうして!!!
【プレイヤー】
(老人は、ジョアン・ファームの悲鳴のような叫びを聞いて、しばらく無言でいたが突如として笑い始めた)
【プレイヤー】
(口元が三日月のように大きく吊り上がり、イヒヒヒと笑うその姿は、ジョアン・ファームが生きてきた中で見たことのないほど怖ろしいものだった…)
老人
新しく始めるとしようか…浄化の巫女様
ジョアン・ファーム
…どういうこと?
老人
古くて汚い旧世界を浄化したから、今度は新しい世界を創る必要があるだろう?
いつもそうしてきた…
ジョアン・ファーム
…いつも……そうしてきた?
老人
そう…。世界をいくら立派に育てたとしても、いつかは腐って朽ち果てていく…
老人
何度もそんなことを繰り返した後…最初から綺麗に出来るようにルールを決めたんだよ
老人
いま、私がお前の血と肉をもって新しい世界を作り出せば、お前の体を大地として新しい世界が生まれるだろう
老人
しばらくした後に、地上には楽園が生じる…人間が知恵を得て堕落した瞬間から新しい世界も旧世界のようになり、いつかまた終わりを迎えることとなる
老人
そんな世界の栄枯盛衰を見守っていると、意外かもしれないが退屈しないんだよ!無限に湧き出る泉のように、様々な物語が湧いて出る絵本のようだと言えば分かるかね?
【プレイヤー】
(老人の笑顔を見つめ、ジョアン・ファームは茫然自失になった)
ジョアン・ファーム
…そんなもののために…
ジョアン・ファーム
お前は神などではない
ジョアン・ファーム
お前は…狂っている!
ジョアン・ファーム
いいえ、違う…
ジョアン・ファーム
私はこんなことのために生まれてきたんじゃない!!!
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームの視界が赤く変わり、全身を空に届きそうな巨大な炎が包み込む)
【プレイヤー】
(炎は瞬く間に地平線を埋めて、巨大な津波となって老人に襲いかかっていく)
ジョアン・ファーム
消えて!!!!
【プレイヤー】
(轟音、熱気、ノイズ)
【プレイヤー】
(ゆっくりと炎がおさまると、そこには老人が傷一つなくそのままの姿で立っている)
【プレイヤー】
(老人は片手にジョアン・ファームの首を、もう片方の手に何か黒くうごめくものを掴んでいる)
ジョアン・ファーム
うぅ…
老人
ほほほ…やはりこうなると思っていたよ。どうやら、浄化の巫女様は私の花嫁になるつもりはないようだ
老人
大丈夫だよ。 私は慈悲深い者だから、創造物の願いをいくらでも叶えてあげよう
老人
実際のところ、神の花嫁には何の意味もない…。それよりも…君の呪いを受けたこれを苗床にして生命を育ててみることにしよう
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームは老人の手に掴まれたまま、自分の隣でキーキーと鳴く黒いものをどこかで見たことがあると思っていた)
【プレイヤー】
(ゆっくりと意識が闇の中に消えて行く)
老人
それでは…新しい世界のために、古い者には退場していただくとしよう…
老人
ちょうど、巫女様にぴったりな場所がある
老人
途方も無い混沌と闇の力が世界を覆い尽くしたせいで、神々ですら見捨ててしまった、そんな世界だ
老人
おそらく滅亡はそう遠くないだろう。闇の奴隷として生きていくことは快適ではないだろうが、私の新しい世界にお前のように退屈な存在は必要ないからね。さぁ、行くがいい!
【プレイヤー】
(老人の声が遠ざかり、ジョアン・ファームは自分がどこかに引き寄せられるように感じた…)
【プレイヤー】
(………)
ジョアン・ファーム
………
ジョアン・ファーム
(この世の全てのものが、ただその者のために存在しているだけだった…)
ジョアン・ファーム
(私の「すべて」は、そんなもののためだったの…?)
ジョアン・ファーム
(……お母さん…)
【プレイヤー】
(薄れていく意識の中で、ジョアン・ファームは一つの考えに取り憑かれていった)
ジョアン・ファーム
(…さない……)
ジョアン・ファーム
(絶対に…許さない…)
ジョアン・ファーム
許さない!!!!!!!!!!
【プレイヤー】
(怒りが彼女の精神を完全に支配して、闇が彼女を受け入れはじめた…)
【プレイヤー】
(『メモリウム』に刻まれた記憶はそこで終わった)