【プレイヤー】
(地平線の端まで続く赤い荒野。熱気を含んだ陽炎が乱れ咲いている)
【プレイヤー】
(灼熱の熱気は空ではなく大地から…。いや、彼女から始まったようだ)
【プレイヤー】
(足元に転がる石は熱気にさらされて焼けつくような熱さをはらんでいる)
【プレイヤー】
(非現実的な風景の中で、ひとりの老人が岩に腰かけて本を読んでいる)
ジョアン・ファーム
……私も嬉しい。人に会ったのは7年振りなの
老人
ほほほ…なるほどのぅ。それならば、浄化の巫女様の力は凄まじかったと語り継がられるじゃろう
老人
60年間、世界の全てが浄化の炎によって燃え尽くされたという話以外にのう
ジョアン・ファーム
えぇ…、その言葉の通り。私の後ろには何もなかった…。世界中を巡り巡って徹底的に燃やし尽くしたわ
ジョアン・ファーム
だからこそ、あなたにどうしても一つだけ聞きたいことがある
老人
ほほほ…、何かね?私が答えられることならば、答えてあげよう
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームを見つめていた老人は、困ったように頬を掻いた)
【プレイヤー】
(突然老人から、息をのむような存在感が感じられる…)
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームはすぐにでもひれ伏して老人に礼をしたい衝動を全身に力を込めて耐えた)
【プレイヤー】
(彼女は恐ろしい目で老人をにらむ…)
老人
あなたはあなたが持って生まれた人生の中で、自らの意志で選択をして、今まで生きてきたではないか
ジョアン・ファーム
そうよ…お姉さんが、お母さんを…燃やした時…自分の中に炎のように燃え盛る怒りが目覚めたの。その怒りが指し示す通りに行なっただけ…
ジョアン・ファーム
だけど…今のこれは一体何なの!?60年もの間、世界を回り、目に見える全てのものを燃やし尽くす…どうして?こんなこと、私は望んでなんかない!
ジョアン・ファーム
いいえ…最初の時ですら…私は…誰も…殺したいとは…望んでいなかった!!!!
老人
そうか…可哀想に…。だが、お前はお前の内の怒りが命ずるがままに…望んだようにしただろう
老人
聖典に記されていただろう、"神の花嫁が世界を浄化して、すべての罪から解放される"と…
老人
そう…。お前の運命は最初からそのために用意されていたもの
ジョアン・ファーム
どうして…そんなことをするの!?みんな死んでしまった…。罪から解放されるって、どういうことなの!?どうしてそれが幸せだって言うの!?何が聖典に記された言葉よ!
ジョアン・ファーム
こんな…こんなことって…!どうして、みんなが死ななければいけなかったの!?どうして、こんなことを私にさせるの!?どうして…、どうして!!!
【プレイヤー】
(老人は、ジョアン・ファームの悲鳴のような叫びを聞いて、しばらく無言でいたが突如として笑い始めた)
【プレイヤー】
(口元が三日月のように大きく吊り上がり、イヒヒヒと笑うその姿は、ジョアン・ファームが生きてきた中で見たことのないほど怖ろしいものだった…)
老人
古くて汚い旧世界を浄化したから、今度は新しい世界を創る必要があるだろう?
いつもそうしてきた…
老人
そう…。世界をいくら立派に育てたとしても、いつかは腐って朽ち果てていく…
老人
何度もそんなことを繰り返した後…最初から綺麗に出来るようにルールを決めたんだよ
老人
いま、私がお前の血と肉をもって新しい世界を作り出せば、お前の体を大地として新しい世界が生まれるだろう
老人
しばらくした後に、地上には楽園が生じる…人間が知恵を得て堕落した瞬間から新しい世界も旧世界のようになり、いつかまた終わりを迎えることとなる
老人
そんな世界の栄枯盛衰を見守っていると、意外かもしれないが退屈しないんだよ!無限に湧き出る泉のように、様々な物語が湧いて出る絵本のようだと言えば分かるかね?
【プレイヤー】
(老人の笑顔を見つめ、ジョアン・ファームは茫然自失になった)
ジョアン・ファーム
私はこんなことのために生まれてきたんじゃない!!!
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームの視界が赤く変わり、全身を空に届きそうな巨大な炎が包み込む)
【プレイヤー】
(炎は瞬く間に地平線を埋めて、巨大な津波となって老人に襲いかかっていく)
【プレイヤー】
(ゆっくりと炎がおさまると、そこには老人が傷一つなくそのままの姿で立っている)
【プレイヤー】
(老人は片手にジョアン・ファームの首を、もう片方の手に何か黒くうごめくものを掴んでいる)
老人
ほほほ…やはりこうなると思っていたよ。どうやら、浄化の巫女様は私の花嫁になるつもりはないようだ
老人
大丈夫だよ。 私は慈悲深い者だから、創造物の願いをいくらでも叶えてあげよう
老人
実際のところ、神の花嫁には何の意味もない…。それよりも…君の呪いを受けたこれを苗床にして生命を育ててみることにしよう
【プレイヤー】
(ジョアン・ファームは老人の手に掴まれたまま、自分の隣でキーキーと鳴く黒いものをどこかで見たことがあると思っていた)
【プレイヤー】
(ゆっくりと意識が闇の中に消えて行く)
老人
それでは…新しい世界のために、古い者には退場していただくとしよう…
老人
途方も無い混沌と闇の力が世界を覆い尽くしたせいで、神々ですら見捨ててしまった、そんな世界だ
老人
おそらく滅亡はそう遠くないだろう。闇の奴隷として生きていくことは快適ではないだろうが、私の新しい世界にお前のように退屈な存在は必要ないからね。さぁ、行くがいい!
【プレイヤー】
(老人の声が遠ざかり、ジョアン・ファームは自分がどこかに引き寄せられるように感じた…)
ジョアン・ファーム
(この世の全てのものが、ただその者のために存在しているだけだった…)
ジョアン・ファーム
(私の「すべて」は、そんなもののためだったの…?)
【プレイヤー】
(薄れていく意識の中で、ジョアン・ファームは一つの考えに取り憑かれていった)
【プレイヤー】
(怒りが彼女の精神を完全に支配して、闇が彼女を受け入れはじめた…)
【プレイヤー】
(『メモリウム』に刻まれた記憶はそこで終わった)